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相談忍者

「ふむふむ、追手とな?」



 場所は川のほとり。師匠は水汲みに来ていたらしい。

 僕は、狩りに出かけての事を早速師匠に相談した。



「そうなんですよ。僕の命を狙いにきたんだ!」


「ぬしは狙われるような事をしたのかえ?」


「誓って言うけど何もしてない!」



 そもそも、追放された事がすでに理不尽だ。僕はなりたくてニンジャになったわけじゃない。

 なのに、なぜ追放先で命まで狙われなくてはいけないのか。僕の前世は魔王か何かなのだろう。



「フローレスはいつも僕を小馬鹿にしてた。追放される時に奴隷契約を断ったのを根に持ってるのかもしれない」


「奴隷とはまだあったんだったかのう?」


「ありません! 国際法で禁止されています!」


「じゃよなあ。なかなか酷い(おなご)ではないか」


「そうなんだよ! 分かってくれますか師匠!」



 これは今まで、誰にも言えなかった鬱憤だ。フローレスの外面があまりにも完璧すぎて、誰も信じてはくれなかったのだ。

 しかしこうなっては、今までの想いが止めどなく溢れる。長年詰もった不満不服は、僕自身が思っていたよりもはるかにストレスとなっていたらしい。



「フローレスがお菓子を焼いた時も、僕の物だけとんでもなく不味かったんですよ! あれは絶対にわざとだ! 他のお菓子は美味しかったらしいですからね! お菓子を焼くなんて可愛い趣味だな、なんて思った僕が馬鹿だったんです! アイツは涙目になって吐き出す僕を指差して、「あらあら、女の子のお菓子を吐き出すなんて失礼だわ」って言ったんです! 誰のせいだと!」


「それは大変じゃったの」


「ええ! それはそれは! それに、僕が猫を拾ってきた時もそうだ! 僕が隠れて餌をやってるのに気がついたアイツは、鼻先で笑うみたいに「ずいぶん可愛らしいわね」って! 僕の顔をまじまじと見て! 馬鹿にして! 男が猫好きで悪いか!!」


「それは酷いのう」


「全くです! それから……」



 そんな調子で、僕はひたすらに文句を言った。

 もしかしたらどこかで会話がループしてたかもしれないけれど、思いついた事を思いついた順番に言っているのだから仕方がないといえる。


 師匠はその間、適度に相槌を打ってわかるわかると言ってくれた。

 子供をあやしているかのような口調は恥ずかしくもあるが、不思議ととても安心感がある。


 これが年の功か。

 時々忘れそうになるが、この小さい師匠はこれでいて千年を超える時を生きているのだ。人間なら仙人とか呼ばれる歳だろう。



「……一応言っておくが、女性の年齢に言及するのは失礼じゃからな?」


「え!? いや、僕は何も言ってないけど??」


「顔に出ておるわ、マヌケ」



 クッソ、敵わねぇ……



「まあ良い。それより大事な話がある」



 一転、真面目な話に。

 大事な話があるのに僕の話を聞いてくれたのか。師匠凄くいい人だな。



「聞いておかねばならんと思ってな。ぬし、よく私のところへ来れたのう」


「え、そんな事ですか? そりゃ……あれ?」



 師匠は、僕にどこへ行くかを言っていなかった。いや、そもそも僕が狩りに出かけている間に師匠も出かけているなんて知らなかった。

 ただ、なんでかその割に僕は迷わなかったのだ。師匠のいる場所が、なぜだかはっきりと僕には分かった。



「言われてみればなんででしょうね……でも、迷いませんでした。探そうともしてなかったんですけど、師匠のところにほとんど一直線に来られました」


「ほほう、なるほど」



 師匠はしきりにうなづいて、なるほどなるほどと繰り返す。

 え、なに? 怖い、怖い、怖い。なんで僕は師匠の場所がわかったんだ? 師匠、僕になんかしてないよね?



「し、師匠、僕はどうなったんでしょう……?」


「何をびくついておるか。これは良い兆候じゃぞ」


「よ、良い兆候……?」


「うむ。これは、ぬしが魔力を感じられておる事の証左よ。私の魔力を感じ取ったのじゃろう」


「魔力が?」



 魔力。

 師匠の話の中で出てきた、よくわからない力。どうやら全ての生物が持っているらしく、これを使うと魔法が使える。

 ただ、僕はそれがなんなのか解らないでいた。

 僕は魔法を習って二日目だし、おいおい解っていけばいいという程度にしか思っていなかった。


 だが……



「魔力を、僕が?」


「然り。これができねば何もできぬイロハのイよ」


「師匠、イロハなんてものを理解してたんだ……」



 順序を理解しているのなら、なぜ最奥なんてものから説明するのか。全くもってちんぷんかんぷんで、一日の半分は無駄にしてしまった。



「いやのう、魔術師の職業(ジョブ)と違って、そもそも魔力が感じられなんだら、エルフの魔法なんぞ理解できたものではないのでな。どうせ理解できんと思うて、私の言いたい内容を優先してやったわ」


「道理でわからないわけだよ!」



 どうにか理解しようと努力していたのが馬鹿みたいだ!



「きっと、兵士に追われて感覚が覚醒したんじゃな。僥倖僥倖」



 ケタケタと笑う師匠に、精一杯の半目をくれてやる。

 まず間違いなく意味をなさないだろうが、それでも自分の意思を伝える事は重要だ。

 思い出したくもない幼馴染みとの付き合いで、その事ははっきりと理解した。



「で、これで僕も魔法を使えるようになったんですか?」


「待て待て、せっかちな奴め。イロハのイと言ったばかりじゃろう。ただ、これで下準備は完了というところじゃろうな」



 師匠が、ニヤリと口の端を吊り上げる。



「追手がおるわけじゃし、自衛手段は二、三日の間に用意せねばならんの」



 その言葉の意味は、決してすぐさま魔法が使えるという意味ではない。

 魔法の習得にどれほど手間取ろうとも、必ず二、三日の間に習得できるほど厳しい修練とするという事だ。



「は、はいよろしくお願いします……」



 できるだけはっきりとした返答を心がけたが、言葉が尻すぼみになってしまった。きっと、顔も引きつっているのだろう。


 一応、考えはあるのだ。自分なりの魔法の工夫を、今から考えてはいる。

 ただ、それを実践するまで生きていられるかが不思議だった。今の師匠は、そんな雰囲気を醸し出しているのだ。



「お手柔らかに……」



 僕にできる事といえば、そうやって一言呟く事くらいだ。

 しかし、残念ながら師匠の耳には届かなかったらしい。

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