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80 歓楽都市カルドレロ


 門前には、通行待ちの馬車の長い列。


 入国までは暫く時間がかかりそうだ。日は高いので、日没までには通れるようになるだろう。



「それで姫、謎解きの答えは分かったかい?」

「――金貨を無造作に5枚とって、それを全部ひっくり返す」

「おぉさすが、大正解!」

「えぇ!? 何でですかフレデさん!?」

「何度かやってみれば分かる」


 そう伝えると、メイシィは木箱から何枚かの金貨を取り出し、カチャカチャとひっくり返し始めた。こんな大金を本当におもちゃにするのは、子供かメイシィぐらいだろう。金貨の鳴る音に気が付いたヒタリも、驚愕の目でメイシィを見ている。


「これでも一応お姫様だ」

「聞いたよ、信じられないよ……」

「そう言うな、ほら」

「……? 何だいこれは?」

「高山植物の根本で拾った毛虫だ、食べて元気を出せ」

「信じられないよ……」



 日が落ち始めた頃、ようやく通行許可が出た。


 荷物の確認もされず、ヒタリも猫のお面を被ったままで通過する。私とメイシィにいたっては布団の中に潜り込んでいただけだ。人間の国境はどうもいい加減な場所が多いな。


 背の低い門を抜けたそこは、外から見た通りの建物が並ぶ高原の都市だ。町の中には草花は少なく、石畳に無骨な建物が並ぶ。この辺りの山に木々がほとんど存在しないのは、この国の建物で使用され尽くしているからかもしれない。


 国の規模が大きいからか、人は密集していない。道幅も広く余裕がある。同じような建物が多く並んでいるせいか、すぐに道に迷いそうだ。


「高原に似つかわしくない、大きな国だな」

「この辺りで最も大きいよ。中立国を謳っていてね、周辺国から資源と金が集まった結果こうなったのさ」


 荷馬車は私たちを町の奥へと運んでいく。徐々に喧噪も大きくなり、建物も高くなってきた。露店が建ち並び、その前を子供たちが走り回っている。


 とても穏やかな光景だ。

 町の様子を見る限り、金貨80,000枚の取り立てが可能な気がしてくる。


「この辺が宿場街だよ。下町の一番安い辺りだ。もっと高級な宿を希望するなら奥の歓楽街まで向かうけど、どうする?」

「ここがいい。この雰囲気が好きだ」

「了解だよ」

「着いたぞメイシィ、カルドレロだ」



――



 そこは味のある宿だった。

 木造の狭い部屋の中に、2段ベッドと机が一つ。窓の外を見下ろせば市場と道路。奥の方には少しだけ歓楽街が見える。


 馬屋に馬を預けたグレルスたちが戻ってきた。 


「狭いね」

「私は好きですけどね! 布団気持ちいいですし!」


 私とメイシィ、グレルスはここで寝泊まりし、ヒタリは別の場所で隠れる事になった。ヒタリはやる事があると言うが、私はまだこいつを疑っている。


「さて、ここを拠点にするのは不安だけど、これからの計画を立てようか」

「そうだな。ヒタリ、お前はどうする?」

「僕はこれから母国の隠者に協力を依頼しに行くよ。水面下で動いてくれる味方が欲しいからね」


 やはり、ヒタリには味方が多い。

 ではなぜさっさと取り立てなかったのか。


 ……もう少し様子を見よう。


「分かった。グレルス、頼みがあるんだが」

「竜の姫君だろう? 情報屋を当たって居場所を探してやるぜ」

「助かる」

「政治の場に招かれているか、その辺に隠れてるかのどっちかだろうな。武闘大会に出るから前者の可能性は高い。簡単に連絡を取れないかもしれないから、少し時間をくれ」

「構わない。……そういえば、武闘大会はあとどれぐらいで開催されるんだ? 参加したいんだが、まだ間に合うのか?」

「あれに出るのか? もうすぐ募集は終わるから、さっさと登録しに行った方がいいぜ。試合はどうだっけな、あと20日後ぐらいじゃねぇか?」


 明日にでも登録するか。

 私は優勝しておきたい理由がある。

 だが、まだその真実はヒタリには明かさない。


「あんな命がけの大会に出る物好きは変人ばかりだからね。姫も十分気を付けてね」

「死にはしないさ。顔と耳さえ隠せるならどうとでもなる」

「それは心強い」


 彼らに聞いたところによると、武闘大会は至って分かり易いものだった。勝敗は簡単で、命を奪うか参ったと言わせるかのどちらか。他国が腕試しに来るのを、開催国の国民が酒を飲みながら賭けて楽しむものらしい。


 そして今回の開催国はここ歓楽都市カルドレロ。賭け事が盛んで、大いに盛り上がる事が期待されていた。


「私はまずは腹ごしらえだ。その後町を散策する」

「くっくっく、まるで遊びに来たみてぇだな」

「何事も、心の準備が必要だからな。メイシィはどうする?」


 ……返事が無い。


 振り向くと、布団で眠っていた。

 やけに静かだと思った。


「疲れたんだろうぜ」

「……散策は明日にする。今日は解散だ」

「了解、じゃあ僕の方も進展があったらこちらに来るよ。君も準備を怠らないでね。竜の姫君との連絡が取れたら、ここに伝言を寄越してくれると助かるよ」


 そう言ってヒタリが渡してきたのは、やけに豪華なカード。

 書いてある文字は……。


「――ロイヤルブレイガ?」

「はぁ!? ヒタリ、おめぇまさか……!!」

「グレルス君、僕と君の秘密だよ?」

「おい、教えてくれ」

「そのうち分かるさ。じゃあまたね!」


 ぱたぱたと手を振り、ヒタリは部屋から出て行った。


「……つくづく運があるなぁ俺、くっくっく!」


 それに続いてグレルスも独り言を喋りながら出ていく。何なんだ一体。


 

――



 翌朝。


 私とメイシィが目を覚ました時には、既にグレルスは外出していた。


 朝食を食べ、メイシィと別れる。


 メイシィは賭博場に向かうらしい。

 この国にはいくつも賭博場があり、掛け金の大きさによって大まかに分けられているそうだ。どの賭博場も観光客には開かれており、金貨さえあればいくらでも遊ぶことができる。かくいう武闘大会の会場も、そんな賭博場の一つに隣接しているらしい。


「このためにこの国に来たんですよ!!」


 そんな負け台詞を残して、彼女は意気揚々と去って行った。右手に抱えていたのは劇場船を造るための出資金の入った金貨袋だ。そして顔には鹿の被り物。実に勇敢である。



「宿主殿、少し尋ねたい」

「おや……馬のお客様。いかがなさいましたか?」


 人前に出るために、私は馬の被り物をしていた。

 穏やかな老宿主から地図を買い取り、町の構造を聞く。


「この宿は町の入り口側、丁度この辺りです。この国は中心に向かって標高がなだらかな傾斜になっております。中心には議事堂や教会、討伐組合などの公共施設があり、その周囲には高級宿と貴族たちのお住まいが建ち並んでおります。そこから更に東に向かうと賭博場が集まる歓楽街があります」

「結構、距離があるな」

「えぇ。地図が無いと迷いますよ」


 メイシィは帰ってこれるのだろうか。


「まぁ町の治安はすこぶる良いですから、お連れの方が迷子になっても戻ってこれるでしょう」

「……私の顔に出ていたか?」

「ふふ。お顔は襟巻で見えませんが、空気で分かりますよ」


 素敵なご老人じゃないか。


「それで、武闘大会の会場はどこになる?」

「最も大きな賭博場がある宿屋、ロイヤルブレイガに隣接していますね。ここは歴史ある賭博場でして、この町でも権威のある方しか賭け事に参加できません。宿泊できるのも特別な方だけでございます」


 なるほど……ヒタリのいる宿だ。

 あいつ、やはりまだ私に何か隠しているな。


「では店主、『羊の胆汁』という店は知っているか?」

「羊の胆汁? はて、初めて聞きましたな」

「……そうか。ありがとう、助かった」

「えぇ。よい旅を」


 宿を出て、町に繰り出した。


 天候は快晴。

 高原らしく、カラっと乾いた空気で清々しい。


 市場の方角を見る。


「まずは買い物と出場登録だな」


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