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02 歩きながらお聞きください


 なぜ私しかいない時に、こうも問題が多発するのか。


「エルレイ殿下、歩きながらお聞きください。

 ドロア東で発見された黒エルフですが、今度はドロアの町の中心で黒い精霊を呼びました」

「それは既に聞いている!」

「し、失礼しました! その黒エルフの発動した影響か、周囲に黒い根が生え、森化が一時的に強まりました。既にドロア市長には、周囲に警備隊の派遣を指示しているそうです」


 何と言うことだ……。


「ドロア市民に被害は?」

「ありません。その森化もすぐに収まったようで、家2軒程が大木に飲まれたようです。現在その大木は黒くはなく、普通の木に変化したとの事」

「……何? 森化は停止したのか?」

「そのようです」


 訳が分からん。

 大木が生えただけではないか。

 黒エルフは町を滅ぼしに来たのではなく、脅しに来たという事なのか?


 応接室の扉が見えた。

 このプロヴァンス城は広すぎる。

 応接室は執務室からは遠く、不便極まりない。


「すまん、待たせたな」


 扉を開けると、大臣たちが起立した。


「殿下、状況は」

「聞いている。だが、緊急を要すものではなかろう。この場では、その黒エルフの狙いと我が国の防衛について決めたいと思う」


 黒エルフは、エルフの王国であるマグドレーナ国の崩壊後から出現頻度を増やし、数年に一度は平地へと姿を現していた。


 恐ろしいのは、彼らが現れた場所は森化が進むという事だ。彼らの領土侵略行為は、まるで手が付けられない。黒森林は、燃やすことも破壊する事も拒む、魔の森なのだ。


 よって、我々人類の見解は一致している。『黒エルフは亜人ですら無い魔獣であり、即座に捕縛、もしくは殺害せよ』と。


「……懸賞金制度は生きているな?」

「えぇ。町での目撃情報もありますので、肖像画も準備しております」

「結構。気になるのは、森化がすぐに停止したという事か。今までの黒エルフとは違う動きだな」

「発生した木は黒森林のものでしたが、すぐにドロアでも一般的な広葉樹に変化したそうです」

「木の種類が変わった? そんな事、あり得るのか? ……まぁ、どのみち領土侵犯には変わりない。町一つ潰れずに済んだだけで儲けものか」

「至急、ドロアに派兵致しますか?」


 派兵となると、大事になる。

 過去の黒エルフ共は、町を蹂躙しつくして甚大な被害を及ぼしていた。あの訳の分からぬ黒い精霊術のせいだ。軍の人海戦術でようやく畳みかけるものであった。

 だが、今回は物的被害が少なく、人的被害も無い。


「……一旦、派兵は待つ。国王陛下が戻り次第、相談の上で決定しよう」

「陛下が戻られるのはひと月も先ですが、宜しいのですか?」

「構わん。黒エルフが本気で町を食いにかかる事が目的であれば、今頃ドロアは森の中だ。今回の黒エルフは動きが不気味だ。偵察部隊を送り出し、状況を逐次報告せよ」

「承知しました」

「では、解散」


 黒森林とは一体何なのか。

 また、そこに住まう黒エルフとは何なのか。

 エルフ自体が滅多に外交を行わない、真に閉鎖的な種族なのだ。我々は長い歴史の中でも討伐する以外は襲って来る黒エルフの対処方法を知らない。


「今の私の判断、お前は間違いだと思うか?」


 不安になり、側近の一人に問いかけた。

 次期王としては相応しい行動では無いかもしれない。

 だが、黒エルフは本当に恐ろしいのだ。


「私の故郷は黒エルフに破壊されました」

「……そうか、それは余計な事を聞いた」

「いえ、そうではありません。殿下の判断は正しいと思います。故郷を滅ぼした時の行動とは、どうも違う気がするのです」

「お前の故郷は、まだ黒い森のままか?」

「はい。あの時の黒エルフは、まさに魔獣のようだったそうです。黒い木を生やして人を食う。黒エルフの発現から、一瞬にして故郷は黒く染まったと」

「……ますます分からんな。今回の黒エルフは、理性がある。奴等の親玉だという可能性も捨てきれぬ」


 黒森林と呼ばれる所以は、その名の通り黒い植物が多いためだ。


「失礼します。殿下、リゼンベルグ国の第二王女が謁見に来られますので、謁見の間にてご準備を」

「もうそんな時間か。分かった、直ぐに向かう」


 謁見の間は、執務室の近くだ。

 また無駄に歩かなければならない。この城の造りは狂っている。


「エルレイ殿下、歩きながらお聞きください。

 第二王女ですが、本日殿下に求婚されると思っているようです」

「それは聞いてないな……」


 冗談ではない。

 本当に、なぜこう問題ばかりが舞い降りるのか。


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