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偏食エルフの女王、逃げながら野食する!  作者: じごくのおさかな
第三章 愛に振り回される女王
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52 花弁の芽生え


「グロッソさん張ってきました。これで全部ですね」

「よくやった、ゾーイ。少し休め」


 これで任務完了か。



 竜の姫君が去ってから数日、我が特務調査隊はひたすら事件の後始末に追われていた。


 といっても、嘘の筋書は出来上がっている。犯人であるヨークは失踪、王城の急襲はフレデチャンの仕業。フレデチャンはまたしても大きな事件を起こしたという事になっている。


 その結果、国王は被害者となった。意識が戻ったのは事件の翌日で、国王は自分が何をしていたのかを全く覚えていなかった。現状を聞いて驚愕していたが、すぐに表情が切り替わり、ベッドの上で復興の確認を始めた。あの様子ならば問題無いだろう。


 もしミルグリフ殿下が以前のリゼンベルグ国王と同じ状況ならば、すぐにでもエルレイを焚き付けたい所だ。国家の危機だろうに、あいつは何を怠けているんだ。


 また、南部に残った領民たちは全てリゼンベルグ島で受け入れる事となった。そのため島民たちは島の拡張と再建に追われている。その辺は隊長が中心となって交通整理をしていた。


「ジョバン君、フレデチャンにお別れは言えたのか?」

「ゾーイさん、それが聞いて下さいよ。フレデチャンは俺を見た瞬間、恥ずかしがって逃げちゃって。愛を知った男は辛いっすね……」


 ゾーイとジョバンが話をしている。


「お前それ、嫌われてるんじゃないか?」


 随分と直球だな、ゾーイ。


「……違いますよゾーイさん。

 愛ですよ愛。あの照れた表情は、今も鮮明に思い出せるっす。

 俺とフレデチャンは熱い想いで結ばれているんですよ。そして、熱くとも決して燃え尽きません。ゾーイさんもグロッソさんも、俺と一緒に愛を探しに行きましょう!」


 俺やメイシィが焚き付けたとはいえ、ジョバンも随分と気持ち悪い男に育ったものだ。今の肩書は、光の勇者と愛の伝道師か。


「一人で探しに行け。俺は1年間、プロヴァンスに籠って読書する事にした」

「……甘いですねグロッソさん。

 愛は、読書で学べますか?

 真実の愛は辞書には載ってませんよ? なーんつって、ははは!」


 はははじゃない。

 完全に調子に乗ってやがる。

 その上、本気で俺が動揺すると思っているから尚更たちが悪い。


「よし独身のゾーイ、全力で殴れ」

「へい」

「へぶっ! ……ゾーイさん、俺の愛はこんなんじゃへこたれませんよ!」

「もっとやっていいそうだ」

「冗談っすよ……へへ……」


 本日の仕事を以て、ボーレン隊長を残して他の隊員たちと共にプロヴァンスへと戻る事になっていた。


 隊長は南部の根の処理があるため、グランデ公爵より残留を懇願された。今回の任務の報酬は、隊長の持つ光の精霊が森化に対抗する手立てだと分かった事だろう。ようやく人類は黒森林と戦う力に気が付いた訳だ。


 メイシィからエルレイへの返事も手元にある。この愛の書簡を持ち帰れば、エルレイの気持ちを少しでも和らげる事が出来るだろう。


 正直、本当にジョバンがメイシィを落とすとは思っていなかった。

 似た者同士、通じ合う何かがあったのだ。

 この事実は墓まで持って行けと隊員達には命令した。


「グロッソさん、水兵さんから手紙っす」

「水兵?」


 竜の姫君の情報屋か?

 手紙を開く。


『此度はご苦労であった。ご苦労ついでに一つ仕事を頼みたい。カルドレロはお主らの国と友好国じゃろう? カルドレロは資金と傭兵を集めたがっていると、プロヴァンス王に伝えるのじゃ』



 資金と傭兵。


 今度はどんな脚本だ……。

 芋づる式に仕事が増える予感がする。


「……いいか、俺たちは何も見なかった。竜の姫君からの手紙は、水兵の手違いで魚の餌になったのだ」

「グロッソさん、そんな事したら水兵さんが首になっちゃいますよ」


 その時、窓の外から事務部屋の中に黄色い花弁が入ってきた。

 これを見る度に、フレデチャンの顔が浮かぶ。


「この花弁を見ると、フレデチャンの顔が浮かぶんですよ。あぁ、恋っすねぇ」

「……断じて違う」

「おや、グロッソさんも浮かんだんっすか!?」

「おぉジョバン君、強力な恋の好敵手じゃないか!」

「ゾーイ、よせ」


 余計な事を。


 あのエルフは俺の仕事を増やす疫病神だ。いくら見栄えが良くても、俺に安息を与えてくれる存在ではない。

 俺をからかった時の、奴の笑顔が思い浮かぶ。


 ……まぁ、悪い奴では無かったがな。


「グロッソさん、水兵さんがまた手紙を持って来たっす」

「燃やせ」

「えぇ!!」



 プロヴァンスに帰ったら、ロドリーナ姫の作った酒を浴びるほど飲んでやる。



 ここは花の都リゼンベルグ。


 外から黄色い花弁がもう1枚泳いできた。



 花弁は俺の頬に触れて、ひらひらと落ちていった。


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