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偏食エルフの女王、逃げながら野食する!  作者: じごくのおさかな
第三章 愛に振り回される女王
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46 隠された狙い


 ヨークの目的は、王位の乗っ取り。


 私たちはそう考えていた。

 何故なら、ヨークが主犯格だと思っていたから。


 だが、違うのだ。


「……フレデ、どういう事だ? 黒森林の根をこの島に引き寄せるなどすれば、リゼンベルグそのものが森と化すのだぞ?」


 グロッソは疑いの目で問いかける。


「そう、それこそが彼らの真の狙いなのだ。私やリゼンベルグ国王にかかっているこの呪いは、現象としては黒森林の精霊に近い。黒森林の精霊とは、『森を拡張したい意思の集合体』だと私は考えている」

「何だと……! では、お前が各地で植物を生やしているのも!!」

「あれは違う! そういう目的では無く、ただ逃げるためにやった事だ! 信じてくれ……」


 机をどんと叩いて立ち上がり、掴みかからんとした勢いでグロッソが私を睨んだ。だが、それは当然だ。私が悪いのだ。各地で破壊を繰り返しながら森化を進めている黒いエルフ、そう認識されてもおかしくない行動をしてきた。



「その辺にしておくのじゃ、グロッソ」


 ナジャ姫様が制止する。


「……失礼しました、姫様。だがフレデ、お前は以前プロヴァンス城を破壊したな。あれはその黒い精霊術を持つ者ならば誰でも簡単にできるものなのか?」

「誰でもという訳ではなく、森の精霊を扱える者だけだ。そもそも精霊術とは、精霊に好かれている者が精霊を操る技だ。精霊が活動するためには、その風土に合った場所でなければならない。黒森林の精霊ならば、黒森林の傍という事になる」


 リゼンベルグなら、水の精霊という訳だ。


「ん、どういう事だ? お前が城を壊した時は黒森林の精霊ではないという事か?」

「そうだ。私があの時に呼んだのは森の精霊だ。……これも仮定になるが、黒森林の精霊が勘違いをしているんだろう。黒森林ではない場所では、呼び寄せた黒い植物が、後からその地域にあった植物に変化しているのだ」



 私は森の精霊を呼ぶ時、黒森林の精霊が発する黒い靄が出る。これは黒森林の傍でなくてもだ。だから、森の精霊と黒森林の精霊は同一のものだと思い込んでいた。


 ではなぜ植物が変化するのか。考えてみれば、普通そんな事はあり得ないのだ。だったら答えは一つ。最初から黒森林の精霊では無く、いつもの森の精霊だったという事。



「……なるほど、それでヒルカになった訳か。その話が事実なら、ヨークが黒森林の根を引っ張って来ると国王はリゼンベルグ城で黒い精霊術を使えるという事か?」

「そうだ。ヨークと国王の目的である、リゼンベルグ島の森化が成就する」

「じゃがフレデ、海の渡って根を伝わせる事はできんぞ?」


 そう、海が天然の障壁となるため、黒森林の根はやって来れないはずだった。


「……なるほど、それで我が城の下の地下にある、貴族通路ですか」

「公爵の仰る通りだ。これは南部の酒場で聞いた話だが、仕事が無い南部領民には穴を掘る仕事が与えられていたとか」

「……確かに、国の帳簿にもそんな内容は上がっていたな。無意味な仕事だと思ってはいたが……」


 ナジャ姫様が、俯きながら話す。


「黒森林から穴を掘り進み、地下の貴族通路に接続する。火を起こし、油を使って黒森林から根を引き寄せる。リゼンベルグ国王は引き寄せた根を操り城を破壊、リゼンベルグ島を森化する。

 ……仮説に筋は通っておる」

「ヨークめ、とんでもない大馬鹿者だ! 自国の民を何だと思っている!」


 グロッソにとっては、あまりにも荒唐無稽な内容なのだろう。


「グロッソ。これは憶測だが、ヨークも黒森林の呪いを受けているのだろう。この呪い、どういう条件かは分からないが伝播する可能性があるのだ」

「なんという事だ……」

「フレデ、グロッソ。ひとまずはこの件の解決からじゃ。グランデ公爵、そうなると地下の貴族通路とやらの番人達も」

「えぇ、既に敵の手中でしょう。我々王派が目立った動きをすれば、犯行を早めてる可能性だって否定できません」

「まったく。何もかもが後手に回りすぎて身動きが取れんの」


 ナジャ姫様の仰る通りだ。こちらは時間が無い上に、敵の目的もようやく見えてきた段階。対する敵は全ての準備を終えており、後は導火線に火を点けるだけ。



 だが、やるしかない。


「ナジャ姫様、これは短期決戦です。同時に各要所を押さえるしか方法はありません」

「……そうじゃな。それに、地下の炎を消し去る事が出来れば根は城まで来れないはず。してグランデ公爵、貴族通路の地図はあるか?」

「申し訳ございません。地図は存在しないのです。この貴族通路は元々、古代の地下の水路を転用したものです。光もなく入り組んだ構造であり、松明も必要な場所にしか設置してありません」

「そうなると……」

「最悪、埋めまた方が早いでしょう」

「じゃな」


 公爵は最悪というが、手っ取り早い方法はそれしか無いだろう。


「――よし。

 では、儂とボーレンは貴族通路を辿って南部へと向かう。ヨークを含む反乱分子は儂らが叩き潰す。グロッソは最悪の事態に備えて島民たちの誘導準備をせよ。事が終わり次第、すぐに証拠を国民に知らしめる。そのつもりで準備せよ。そして」


 ナジャ姫様は私とグランデ公爵を見た。


「フレデとグランデ公爵は国王の元へと向かえ。手段を選ばず、国王を取り押さえるのじゃ。……グランデ公爵、そうなるとお主の立場が大きく変わるじゃろう」

「竜の姫君、お気遣いありがとうございます。ですが、私の立場なんぞ国民の命に比べれば安いものです。国王への謀反の汚名を被っても構いませんよ」


 公爵は、覚悟ができていた。

 死んでもいいと言うのか。


「そうはさせないよう、儂が口利きをする。じゃが、公爵でいられるかの保証はない」

「ご配慮、感謝いたします」

「よし、ではすぐに行動開始じゃ!」


 ナジャ姫様の一声で、全員のやる事が決まった。

 だが、グロッソは不安げにナジャ姫様に問いかける。


「お待ちください、竜の姫君。貴方様が我々人間に介入してもよろしいのでしょうか?」


 ……そうか、ナジャ姫様は中立の立場。

 竜族はどの種族にも肩入れしないという、暗黙の了解がある。


「この面子が黙っていればよい。活動場所は言葉通り水面下じゃしの。それよりもグロッソ、お前の方はどうなんじゃ? お前の国は何も得をせんぞ?」

「……我が国の王子より、隣人の危機には利が無くとも手を差し伸べろとの指示を受けております。ですが、それ以前に俺の目の光るところで悪の思い通りにはさせません。それは、曲げられない俺の信念です」



 この言葉には驚いた。


 正義感で動いていたのか。

 グロッソは、私の思っていた以上に熱い男だった。


「ふっふっふ。フレデ、こいつはこういう奴じゃ」

「ふふ、随分と良い男だったんですね」

「じゃろう? お主にやってもよいぞ?」

「ご冗談を」


 グロッソは舌打ちをしてそっぽを向いた。

 照れているようだ。


「おいフレデ、お前はどうなんだ?」

「私はお前ほどの信念は無い。目の前で困っている人がいたら、体が勝手に動くのだ。これは、曲げられない本能だ」

「ふっふっふ。からかうのもその辺にしておけ」


 あまり言うと、本気であの大男を仕向けてきそうだ。

 今は、グロッソが良い男だと知れただけで十分。


「そうですね。ではグランデ公爵、私は兵士の服装に着替えて……」



 その瞬間、床から突き上げるような衝撃が襲い掛かった。



 体を水平に保てなくなり、体勢が崩れて床に手を付く。


 戸棚の本や食器は崩れ落ち、棚が耐えきれずに倒れてくる。

 揺れが収まる気配は無い。


 地震……いやまさか……!


「……ぐっ…!! 何事じゃ!!」

「りゅ、竜の姫君! ……城……リゼンベルグ城が!!」


 グランデ公爵の叫びで、全員が窓の外を見た。

 この地震の原因……。


 美しかったリゼンベルグ城に、おぞましい黒い根が巻き付いていた。


「……早めおったな、ヨーク!!!」


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