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偏食エルフの女王、逃げながら野食する!  作者: じごくのおさかな
第三章 愛に振り回される女王
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40 泥まみれの変態



 国王の登場で、会議室の空気が一気に張り詰める。


「――緊急な報告会と言う事でな、儂が出なければ話にならんだろう?」

「はっ! ご足労頂き、大変ありがたく存じます!」


 言葉では歓迎しているが、グランデ公爵の額には汗が見える。


 国王と王女らしき人物は、そのまま上座のグランデ公爵の元へゆっくりと近づいてくる。私が国王の黒い靄が見えるから、国王にも私の黒い靄が見えているはずだ。その証拠に、国王は先程からずっと私を凝視している。


 プロヴァンスでも王族が呪われていた。そのため、もしかしてリゼンベルグも、とは考えていた。だがいざそれが現実となると、対処方法を何も考えていなかった自分に対して腹が立つ。


 しかし、国王からは何も言われない。

 気付いているはずなのに、どういう事だ?


 2人がメイシィの前にやって来た。

 王女らしき人物が口を開く。


「メイシィ・グランデ公爵嬢。よくぞエルレイ王子を射止めてくれました。わたくしでは力不足だったようですが、貴女が動いてくれたお陰で王派は大きな力を得ました」

「勿体無いお言葉です、メルエダ王女様。私はこのリゼンベルグの為に、そしてエルレイ様の為になればと思った次第です。これからも国家のために全身全霊を尽くさせて頂きます」


 メイシィがお淑やかに会話する。


 これは、ひどい猫かぶりだ。

 琥珀鳥の物まねをやって頂きたい。


「……その必要はありません」

「え?」

「エルレイ王子はわたくしの物です。わたくしが頂きます」

「メ、メルエダ王女様!? 一体どういう事でしょうか!?」

「言葉通りです。貴女の婚姻は無効であるとの知らせをプロヴァンスには送ります。その代わりとして、私との縁を結ぶように書簡を添えます」


 ……一体何を言っているんだ、この王女は?


「これは決定事項である。……では、私はこれから会議があるため失礼する。

 メルエダ、お前も来なさい」

「畏まりました、陛下」


 訳が分からない。

 だが、王派の頂点である国王に具申する者は誰一人としていなかった。


 言いたい事だけ言って帰るようだ。

 場が騒然とする中で国王たちはくるりと翻し、部屋の入口へと歩いて行く。そして扉を出る瞬間、国王が口を開いた。



「――あぁ、言い忘れる所であった。

 メイシィ嬢の後ろに立つ兵士は敵だ。首を落とせ」


 っっ!!


 一瞬で部屋にいた兵士達は全員槍を私に向け、貴族たちは後ずさりする。

 動いていないのは、メイシィと私だけ。


「武器を下ろせ!」


 兵士の一人が私に叫んだ。

 兵士は10人程度、入口は一つだけ。国王は既にいない。



 ……油断した。

 私は指示通りに、持っていた槍をゆっくりと床に置く。


 そしてそのまま、鎧を脱ぐ。


 周囲がざわつくが気にしない。

 ずっと重かったんだ、これ。

 鎧の下は下着だが、別に見られて減る物でも無い。


「……なっ! 女だと!?」

「ふ、フレ……はしたない! あなたは変態ですか!」


 メイシィ、今のは危なかったな。

 名前を叫ぶと私との関係性が疑われる。


「変態では無い。武装解除だ」


 靴を脱ぎ、小手を外す。随分と体が軽くなった。


「これでいいか?」

「し、下着も脱いでください!!」


 全員が驚愕の目でメイシィを見た。

 それはそうだ。

 この娘は、状況を楽しんでいるだけなのだ。


「違う! 兜だ、兜を取れ!!」

「……私の首を切ってからでいいだろう?」

「さっさと顔を見せろ!!!」


 兵士の一人が持つ槍の矛先が、私の首元に近づく。この激高した兵士は、訓練がなっていない。私が槍を掴んで反撃するとは考えなかったのか?



 私は水の精霊に念じた。


 リゼンベルグは水の都。水の精霊の力が、恐ろしく強いのだ。周囲に、渦巻く泥水の玉がいくつも生まれる。多少の脅しにはなるだろう。


 そして兜を取り、頭を振って髪の毛を解いた。


「く、黒エルフだと!!!」

「これが変態のご尊顔ですか!!」


 馬鹿な発言ばかりのメイシィはニッコニコだ。建前上は初対面というこの状況を利用して、どうしても私を変態に仕立て上げたいようだ。

 後で覚えておけよ……。


「私は何もしない。見逃してくれないか?」

「嘘を吐け、この精霊は何なんだ!! さっさと解除しろ!」


 そうだった、私は既に水の精霊を呼んでいた。


 私はゆっくりと両手を上げながら、兵士に微笑んだ。



「――悪い、嘘だ」


 その瞬間、いくつもの泥の水玉が破裂した。

 部屋にいた貴族ごと、兵士たちを泥まみれにする。


 私は水玉の一つを窓に飛ばし、窓を破壊した。


「っく……! ひっ捕らえろおお!!!」


 目つぶしを受けたような状態となった兵士たちは叫んだ。


 だが、遅い。

 兵士の槍が私に届く前に、窓から飛び降りた。


「風の精霊!」


 風がふわりと私を包む。

 海と隣接しているにもかかわらず、風が弱いこのリゼンベルグでは、風の精霊の力が弱かった。滑空というよりもほぼ落下する形で、城の近くで開いていた果物の露店の屋根を突き破った。


 何とか受け身を取る。

 屋台の屋根が泥まみれになって破壊され、商品の果物にも泥が掛かった。


「っぐ……! すまない、後で支払う!!」


 背後には兵士。

 急がないと追いつかれる。


 島の外は海だ。陸地のある南部の海岸まで泳げる自身は無い。

 となれば、このまま島のどこかに隠れるのがいい。

 幸いまだ追っ手との距離はある。


 私は、そのまま人混みの市場を駆け抜けた。


 人目を避けながら、魚市場に辿り着く。

 そのうちの木箱が積みあがった倉庫の一つに私は身を隠した。


 寒いし、とても生臭い。

 小さく丸まり、下着姿のままでじっと夜を待つ。


 ……あの国王は、意識がはっきりとあった。人間が乗り移られても、必ずしもすぐに暴走するという訳ではなさそうだ。どうせ逃げる羽目になるのなら、ついでに黒い靄に触れると解除できるのかどうかを確認しておけばよかった。


――


 夜になり、兵士がいない路地を通りながら、小門を抜けてグランデ家へと向かった。黒いエルフが出たにもかかわらず、小門の警備体制は変わっていなかった。グランデ公爵が裏で動いていてくれたのかもしれない。


 庭に侵入し、食事中であったグランデ公爵一家がいる部屋の窓を叩いた。

 気付いたメイシィが窓を開け、笑顔で出迎えてくれる。


「フレデさん! まさに、お父様の顔に泥を塗りましたね!」


 ……これが言いたかったんだと言わんばかりの彼女の表情を見て、気が抜けたのかもしれない。



 私はそのまま、意識を失って倒れた。


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