34 姫様、ご報告いたします
儂の元には、様々な情報が届く。
グリエッド大陸各地に巻いて作った、情報屋という繋がり。それを大いに利用して、それを売買する事を生業とする。そんな組織の頭をやっているのだから。
リゼンベルグの一角、海の見えるこの小さな小屋にいても、それは変わらない。
「ナジャ姫様、ご報告いたします。
プロヴァンスで起きたヒルカ創造事件ですが、フレデ様のお戯れによるものとの事です」
「……ふっふっふ、そうか。そうじゃろうな」
自由になった矢先に王城に花を生やすとは、想像以上に自由すぎる。黒森林の力を大量に使ったことに対する驚きよりも、まったく変わらない彼女への呆れの方が大きい。
早く顔がみたいのう。
「今はどの辺じゃ?」
「数日前にクルボアを出たそうです」
「まだ遠いの……」
ボーレン達の方が先に着くのではないか。
何しとるんじゃ、フレデは。
「ひたすら爬虫類を食べているそうです」
「……」
あの娘は、昔から変わっていた。
エルフの大国の王であるにも関わらず、歪んだ食生活。夫はいらぬと申し、人間と外交を始めようとした。その本心も食事のためじゃ。あの娘の原動力は、食事を根幹に置いた好奇心。
あれでは、嫁げない。
「ふっふっふ、全く変わっておらぬな」
「ナジャ姫様、ご報告いたします。
プロヴァンスより、使者が参りました。グロッソと名乗る者ですが…」
「……来たか。儂の客人じゃ。儂が出迎える」
「承知しました」
夕日が沈む光景を見るのを諦めて、椅子から立ち上がる。
現在、この王都リゼンベルグには多くの人が押し寄せている。ここが森化の影響が無い、安定した国だからじゃ。
しかしその一方で、人が流出した地域は厳しくなる。
この国は、完全に二分した。
……欲望とは、恐ろしいものじゃ。気付かないうちに足を取られる。自分の行いが今日はどうだったか、全ての生物が一日の終わりに自問すべきなのじゃ。
特に、戦争ばかりやる人間は自身の志を疑おうとしない。その実態は人の為ではなく自己の為。彼らはそれを見て見ぬ振りをし、わざとらしく戸惑いながら卓上から指示を出す。その結果、死ぬのは未来ある若者達じゃ。
そして、今来た客人は、そんな世界に嫌気がさした人物の一人。
「遅れました。お久しぶりです、竜の姫君」
「久しぶりじゃな、グロッソ。まぁ入れ」
「失礼します」
この男も、昔から変わらぬ。
自分の正義を貫くせいで、常に損を被っておる。
さて、賽は投げられた。
フレデ、お主はどこに辿り着く?




