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偏食エルフの女王、逃げながら野食する!  作者: じごくのおさかな
第二章 王都に酔いしれる女王
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28 採点される特務調査隊


 プロヴァンス王城、特務調査隊事務室。


 本日も隊員たちと共に、不正取引の証跡と過去の帳簿の整合性を一行ずつ確認する。我が特務調査隊は、そんな地味な仕事を積極的に請ける集団だ。


「グロッソさん、また今日も資料整理っすかぁ?」

「そうだ。淡々とやれ」


 こいつらは何も分かっていない。

 資料確認こそ、最高の仕事なのだ。

 何せ、面倒事を全て紙の上だけで処理できるからだ。


「俺、黒エルフ対策委員会に参加したいです! 隊長だけずるいっすよ!」

「大きくなったな、ジョバン君。では、ボーレンさんと二人で行って来い」

「……」


 葛藤しているな。

 フレデチャンへの愛と、ヒゲのおっさんの介護を天秤に乗せてやがる。

 さっさと仕事をしてほしい。


 当然ながら、ボーレン隊長には事務仕事なんて無理だ。今は英雄として別の仕事に従事している。本人も大好きな、兵士達の訓練だ。


 黒エルフ対策委員会なんてものはエルレイが建前上作った窓際組織であり、配属されたのは、仕事をしない爵位持ちの次男や三男ばかり。隊長がその頭に立つことで、なんとか形を保てている組織だ。エルレイは隊長のやる気とフレデチャンの懸賞金を口実に利用して、人員整理を行っているのだ。

 実に腹黒い。


「俺はこうして毎日書類整理していたいぞ」

「グロッソさん、そろそろ結婚したらどうですか?」


 ……ジョバン君は本当に気の使えない男だ。これではモテないのは当然だ。


「ジョバン、お前は童貞か?」

「はぁ!!? 馬鹿じゃないっすか! 俺は仕事に戻りますよ!!」

「くっくっく……」


 隊員たちも笑っている。

 上司に馬鹿と言うのはどうかと思う。

 だが、何故か許せるんだよな、こいつは。


 ジョバンがやる気を見せたその時、扉を叩く音が聞こえた。


「失礼する。グロッソはいるか?」


 すぐに全員が立ち上がり、入って来た男に頭を下げる。


「ここに、エルレイ殿下」

「全員なおれ。そう畏まらなくともよい。竜の姫君からの依頼だ」


 そう言うと、秘書官から一枚の紙を受け取り、俺に差し出した。


 エルレイの口元は笑っていた。

 こういう時は大抵、厄介な仕事だ。

 また面倒な事をと意思を込めて、エルレイと目と目で会話する。


 依頼書には、こう書いてある。


『森化が加速しておる。ボーレン・フクス殿をこちらに寄こすのじゃ。光の精霊の力で何かできないか実験をしたい。加えて、このリゼンベルグもきな臭い。何か起こるかもしれん、急ぐのじゃ』


 依頼書というかメモだな。確かに竜の姫君からだろうが、それを証明する印や書状も何もない。彼女らしいといえば、彼女らしい。


「ジョバン君が要望していた外仕事だ。よかったな」

「本当ですか! ありがとうございます殿下!!」


 国外だがな。


「グロッソ、このままいいか?」

「えぇ」


 その場で、エルレイとの打ち合わせが始まる。

 隊員たちを自席に戻し、茶を用意して会議机に座った。


「しかし、リゼンベルグですか」


 その瞬間、ジョバンが酷く落ち込んだ顔になる。

 やめろその顔、笑ってしまう。


「今回の国家間会議で判明した事だが、リゼンベルグの周囲だけ森化が加速していたそうだ。このままでは、根が障壁を突き破り、リゼンベルグ南部の町中へと侵入してくるのも時間の問題だと情報屋からは聞いている。国民には知らせていないらしいが、住人は各自の判断で北部に移動を始めているようだ」

「それは……一大事ですね。ですが、なぜうちの隊長が必要で?」

「知らぬ。光の精霊とやらが、何か仕事をするのではないか?」


 精霊はよく分からん。

 俺も隊員たちも、暗い時に隊長がいると便利だ、ぐらいの認識だ。


「……となると、隊長は竜の姫君に任せて、残りの我々はきな臭い何かを調べろという事ですか」

「その通りだ。何がきな臭いかもさっぱり分からんがな、はっはっは!」


 冗談ではない。

 一体、何を成果として報告すればいいのだ。


「それでリゼンベルグの件だが……その……メイシィ嬢は最近どうだ?」

「メイシィ嬢ですか……」


 隊員たちには、既にエルレイのメイシィに対する熱い想いを伝えていた。

 同時に、俺たちで応援しようという任務も与えた。


 決して皆で楽しもうという訳では無い。

 だが、隊員たちは笑いをこらえているのか、肩がぴくぴくと震えている。

 これは、お仕置きが必要だな……。


「……彼女は、実におしとやかな女性ですね」


「ぶふっー…!! ……けほっ……し、失礼しました!!!」


 ジョバンの馬鹿が吹き出した。

 まずジョバンは減点。


「そうだろう? 彼女がプロヴァンスにいる間に、何か贈り物をしたいと考えているのだ。彼女の好みなどを知らないか?」

「好みですか。私の幸運の色は青とか言っていたので、青いドレスでも買えばいいのではないでしょうか?」

「グロッソ君……愛はお洒落では無いのだよ。熱い想いなのだ。短絡的な考えで決めた物ではなく、心を打つ何かを送りたいのだ」


 知るか。

 妹にでも聞け。情報屋だろう。


「権力とかはいかがでしょう? 喋るのが好きみたいですよ」

「はっはっは、何を言う。あの穏やかな性格を知らないとは、お前の目は節穴か?」


 お前の目の方が節穴だ。


「……申し訳ありません、これ以上は分かり兼ねます。それよりも殿下、最近ローブの不審な女が図書館に出入りしているらしいのですが、何か知りませんか?」

「あ……あの者は竜の姫君の使者だ。私も話をしているし、何の問題も無い」

「そうですか。では、黒エルフの方は最近はどうでしょう?」

「……存ぜぬ。状況は変わらん」


 エルレイは隠し事があるときには目を逸らす。


 ……これは真っ黒だな。


 よりにもよって、フレデチャンが城に侵入している。

 馬鹿な奴め。水面下でエルレイが隠していることぐらい把握している。こいつは先日の発言通り、見て見ぬふりをしているのだろう。なぜフレデチャンが城にいるのかは知らんが、あんな委員会を立ち上げたからにはエルレイは表沙汰にできない。隊長が頭にいる限り、厄介な事しか起きないのだ。


「そういえば、ファビアーノはいるか?」

「は、はい!」

「君の描いたこのフレデチャンの手配書、非常に出来が良くてな。私の知人が原画を買い取りたいと言っている。悪いが、1枚描いて売ってくれるか?」

「そ、そんな! 描いて差し上げます! 光栄です!」


 ファビアーノは加点だ。良かったな。


「殿下、話は戻りますが、我々は少し情報収集してから出国します。どのみち隊長は国王陛下の視察に備えて仕事をしておりますので、それが終わらなければ動けません」

「あぁ、それでいい。日が決まったら教えてくれ」

「承知しました」


 エルレイは席を立ち、部屋を出た。


 次の仕事はリゼンベルグ。


 当然だが、王都からはかなりの距離がある。良い馬車で移動しても、軽く10日以上はかかる。出る前に、俺も情報の裏打ちのために準備をしておくか。


「さて……」


 隊員たちを見ると、いかにも自分は真面目ですといった顔で仕事をしている。

 さっきまで心の中でエルレイを笑っていたのに、現金な奴等め。


「修練場で隊長の相手をするのは、最下位のジョバン君に決定」

「ええええぇ!!」

「おめでとう。国王陛下にもお会いできる名誉だ」


 真面目に仕事をしなければこうなる。

 ジョバン君を利用して、俺は他の隊員達を育てていた。


 結局、俺もエルレイと同じで、腹黒いのかもしれない。


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