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偏食エルフの女王、逃げながら野食する!  作者: じごくのおさかな
第二章 王都に酔いしれる女王
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21 檻の中からの依頼


 心底驚いた。


 薬草を売りにやって来たと思ったら、なぜかそこは私を捕らえる檻の中だった。

 ラガラゴは馬鹿なのか?


「……正直、私に紹介する時点でどうかしているとは思いました。

 ラガラゴは優秀ですが、馬鹿で変人です。本当に貴女をただの商人としてしか見ていないでしょう。ですが、我々の組織の中には貴女を倒すために徒党を組んで躍起になっている方もいらっしゃいます。情報は新しく、殺される恐れも無いのに金貨500枚ですから。貴女を売ろうとしないだけ、ラガラゴは自分が常識があると思っているはずです」

「いや、それはどうだ。あいつが私を送り出したここは、私にとって敵地のど真ん中だぞ? 常識って何だ?」


 ロドリーナさんも疑問だろう。

 だって、私を討伐する組織の2番手だ。そんな人物が討伐対象を紹介されて、その上そいつから薬草を買い取れなんて言われたら、訳が分からない。


 ロドリーナさんは頬に手を当て、ため息を吐いた。

 その仕草にもどこか気品を感じる。


「ロドリーナさんは、今後どうする気だ?」

「ロドリーナでいいですよ。立場上、あまり貴女に深入りは出来ません。ですが、個人的に興味があったのでこの依頼を請けました。私の要望を聞いてもらう代わりに、フレデチャン……失礼、フレデさんには出来る範囲で協力をしようかと。手配書の取り下げの件も、一応水面下で動いてみましょう」

「……そうしてくれると、助かる。私もフレデと呼んでくれ」


 王都で後ろ盾が無い私にとって、協力者は心強い。


「それで、要望とは?」

「いっぱいありますが、まずは、そうですね…」


 彼女はヒルカをじっと見ている。

 ……なるほど、酒飲みか。


「ヒルカを……」

「……好きなだけ売ろう」

「やった! ありがとうございます! いやぁ、中々出回らないんですよね!」


 そうして、ロドリーナの酒盛りが始まった。



――



「……ッカー! たまらんですねこれ!」

「ロドリーナ、仕事はいいのか?」

「いいんですよ、明日できることは明日やればいいんです。人類は働きすぎなんですよ……グビッ」


 ヒルカを直に溶かした溶液を、そのまま飲んでいる。

 直接食うよりは酒の濃度が低いが……。


「ねぇフレデ、精霊って何なの? エルフばっかり使うじゃん」


 態度が急に崩れた。酔うのが早いな。


「人間も使役するだろう?」

「そりゃあ一部の凄い人だけよ」

「んー、そうだな……」


 精霊。


 エルフの認識では、万物に宿る意思の集合体、または想いの魂となっている。だが一言で魂と言っても、我々生命とは意味合いが全く違う。


 火という意識が強く出る所には火の精霊が産まれるといったように、精霊とは第三者が作り出した意思を持つ幻影のようなものだ。故に、森には森の精霊、海や川には水の精霊が生まれる。鍛冶場が多いドワーフに多いは、火の精霊だろう。


 精霊達を使役するというのは、逆に精霊たちが生命を意識するという事。

 言い換えれば、憑りつかれるのだ。

 精霊達は、社会的に位が高い者や、尊い考えを持つ者、崇拝されている者に宿りやすいと言われている。エルフの王族である私は、火、水、土、森、風の精霊に懐かれていた。


 だが、懐かれている事と力が強い事は全く別物だ。

 以前の私の精霊は、今ほど力は荒れていなかった。森の精霊などは、私を守る程度に蔦がニュルっと生えるだけであったし、風も感じないほど弱かった。これが狂ったのは呪いのせいだと考えている。


 また精霊には、宿主の言う事を聞くものもいれば、我儘で気まぐれなものもいる。後者は頼んでも反応しない。精霊の力が弱い時には、彼らも休みたがるのだ。


 そして、精霊の力は有限だ。際限なく使用すれば、精霊は消滅する。


 また、精霊が産まれやすい地形もある。この王都も、精霊が産まれやすい形をしていた。彼らは、季候が比較的穏やかな場所や、争いの少ない場所を好むのだ。


「――といった所だ。分かったか?」

「……グビッ……じゃあ、私みたいな一般人は、精霊術を使えないのぉ?」

「そうではない。水が好き水が好きと願って思っていれば、いずれは水の精霊に懐かれる可能性はある」

「ふぅーん、じゃあうちの組合長は、光に好かれてんのねぇ」

「光? 光とは、珍しいな」

「そうなの? たまに顔が光るの。……ぷぷぷ! あっはっは!」


 ロドリーナは完全にへべれけだ。


「ねぇフレデ、どっか遊びに行こうよ~」

「遊びにって……別に、い、いいが……」

「ひゃ~! フレデチャン可愛いぃ!」

「ちゃん付けはやめろ!」


 絡み酒か。ロドリーナが抱き着いてきた。

 引き剥がそうとしたが……力がやたら強い……!


 彼女は、そのままぐうぐうといびきをかきだした。


「はぁ……」


 ……ロドリーナは討伐組合の幹部なのに、黒いエルフを憎んでいる様子は無い。情報屋というのは、変わった人物ばかりだな。



 人間とエルフ、なぜ争う事になったのか……。


 エルフ族の中で、マグドレーナは人口だけは多かった。しかし、武力を持たず、あるのは食糧の魔獣を捕縛する狩番兵団のみ。エルフは森の恵みだけで生きていけるし、領土拡張にも興味が無い。戦争なんて無駄な行為はもっての外だ。


 人間達からは、森化がエルフによる領土侵犯だと捉えられているのは知っていた。

 私は、彼らとの国交でその誤解を解きたかったのだ。


 これは単なる想像だが、人間達とエルフが国交をしない状態が続き、人間達が森化に痺れを切らせたのだろう。

 森化した土地の根は強く、防ぐには何らかの丈夫な障壁を作るしかない。でなければ、少しずつ人間の領土が森に奪われていく。


 ……もしそうだとしたら、何事もままならないものだ。


 私はするりとローブを脱ぎ、ロドリーナからすり抜ける。

 彼女をそのままソファに寝かせ、ローブを掛けた。


 私もここで一晩貰おう。迷惑料だ。


 ロドリーナの対面のソファで、横になった。

 地面以外で寝るのは久しぶりだ。


 一瞬で、夢の中へと落ちていった……。



――



 翌朝。


 目を覚ました時には、既にロドリーナが机で朝食を食べていた。

 寝癖を整え、私も乾燥した虫たちを口に入れる。ポリポリとお菓子のようで美味しい。


「ひぃぃ!! 何食べてるんですかぁ!!」

「美味しいぞ、これはガリガ虫だ。この森の南の、枯葉の裏に多くいる虫でな……」

「わ、分かりましたから、見せないで!」


 ロドリーナも駄目か。

 エルフでも虫嫌いは多かったが、人間も同じのようだ。


「コホン……! それで早速ですが、フレデには仕事を一つおねがいしたいのです。」

「ロドリーナ、敬語じゃなくていい」

「そうはいきません。親しき中にも礼儀あり、私は凛とした貴族であろうと心がける義務があります」


 昨晩の酩酊具合は何だったのか。


「ここ討伐組合では、魔獣など人類に被害を多く与えるものを狩る事が仕事です。組合はグリエッド大陸の各国にあり、それぞれが本部と支部を持っています」

「……それで、私は何を狩ればいい?」

「ふふ、話が早いですね。フレデの実力は、ラガラゴから聞いています。そして、単騎で行動される方が都合がいいでしょう? プロヴァンスより北の山岳地帯に、キンチュウベルという厄介な魔獣がいます」


 キンチュウベル。


 人間の成人ほどの大きさの狐で、青く輝いている。人間は襲わないが、家畜や畑を食い荒らし、寒村を困らせているらしい。知能が非常に高く、罠も通用しないそうだ。


「キンチュウベルは、素早すぎて捉えるのが大変なんですよ。その上、小さな寒村からの依頼なので、依頼料が非常に少なく請けてくれる人がいないのです。フレデの精霊の力があれば、何とかなりませんか?」


 こちらを襲わないなら、何とかなるかもしれない。


「分かった、請けよう。しかし、王都に来たばかりなのに、まさかすぐに王都から出るとはな……」

「そういえば、何しに王都に来たんですか?」

「え!? 昨日、言っただろう?」

「あ、あはは……メモがどっか行っちゃいまして」

「……まずは王立図書館で呪いの情報を知りたいと思ってる」


 リルーセの司書、ミロネルクから貰った許可証を取り出した。


「これがあれば、中に入れると聞いている」

「へぇー! ミロネルクさんの許可証ですか! そうですね、これなら入れますよ。ですが、今は無理ですね」

「……何?」

「国王陛下が帰還されて、王城では式典と社交が沢山行われているのです。この国の王城って、貴族達の家でも仕事場でもありますから。社交の時期は、王立図書館に入れないどころか、爵位持ちの人以外はよほどの理由が無い限り城に入る事は出来ません」


 何という事だ。時期が悪かったか……。


「プロヴァンスの南門で見た長い行列は、そういう事だったのか」

「まぁまぁ。暫く時間があるなら、この依頼も丁度いいではないですか。じゃ、発注しときますね。あぁ、組合員証も持ってってください。私の許可証も」


 いつの間に作ったのか、私の組合員証とロドリーナのサインが入った許可証を受け取る。


「あと、フレデは顔と耳を隠した方がいいですね。ちょっと待っていて下さい」


 ロドリーナは暫くすると、深緑色の襟巻を持って来た。


 非常に軽く、質の良い柔らかな生地だ。


 早速、付けてみる。

 鼻まで顔を隠せそうだ。それに、ひざ掛け代わりにもなる。襟巻は長く、余った両端は腰の辺りまで垂れていた。

 耳はフードにやや突き出たままだが、襟巻のお陰でかなり目立ちにくくなった。少し痛いが、耳を折り曲げれば見た目はほぼ人間と同じだ。

 何よりも、お洒落である。


「こんなものまで……ありがとう」

「もちろん有料ですよ? キンチュウベルの報酬でも足りないから、ヒルカを全て無料で頂きますね」


 ……流石はラガラゴの知人。


 こうして私は、私を討伐する組織からの依頼を受ける事になった。


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