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16 光の中の真実


 時間は少し遡る――



 自分の身長ほどある大きな背負い袋を背負って外に出た私は、デモ隊がゆっくりと行進するリルーセアーチを、崖沿いから眺めていた。


 この規模の人間は、初めて見た。

 私の演説でも、マグドレーナではこんなに集まらなかったな。

 エルフは基本的に自由の民だ。演説には興味なし、といったご先祖様も多い。かく言う私も、果たしてやる意味があるのかと思いながら話していたものだ。


 この行列を宥めて帰すのって、後始末も考えるとかなり面倒臭そう。

 そんな統治者的な見方をしてしまう自分が、少しだけ可笑しかった。


「しかし、飛ぶ場所が無いな……」


 森の精霊の気配は感じる。

 だが、家2軒分の広さの土地なんてこの密集した町にあるんだろうか。

 ……いっその事、身分証があるなら、デモが落ち着くまで待ってからそのまま町の門を歩いて出ればいいんじゃないか?


 崖沿いの手すりに肘をついた。


 手すりを、小さなシャクトリムシが這っていた。

 虫は、毒さえなければ原則食べれるのだ。


 ごくり……。


 …………我慢だ我慢。今は違う。


 川を塞き止めていいなら、川でもいいんだがなぁ。

 そうして下を見ると、リルーセアーチに何か動きがあるのが目端に移った。


 ――それを見つけたのは、本当に偶然であった。


「……ねぇたっくん、あれ……!」


 隣にいた男女も気付いたようだ。


 橋の中から、縛られた小さな娘が飛び出ている光景に。



 あの娘を助けなければ、夢に出る。

 黒いエルフだか何だかは周りの都合だ。



 私の体は、自然と動き出していた。


「おい、嬢ちゃん、あぶねぇ……」


 手すりに足をかけ、私は勢いよく渓谷へと飛び出した。

 風の精霊を纏い、滑空しながら近づく。


 フードが風になびき、外れた。自慢の耳があらわになる。

 その瞬間、周りから悲鳴が上がった。


 私が嫌いなら、構わないでくれ!


 周囲の悲鳴に気が付いたのか、落ちそうな少女と目が合う。

 少女へと、右手をまっすぐ伸ばした!


「届け……!!」


 指先が少女に触れる直前だった。


 対岸の崖上から、一本の矢が橋の中に吸い込まれていった。

 その瞬間、少女を掴んでいた手が離され、少女が落下する!


 っく……!


「……ぁあああ!!!」


 何でもいい、何でも来い!!


 そう願ったその時、風の精霊が私から離れ少女に纏わりついた。

 同時に、川底から家一軒ほどの巨大な花が沸き上がり、少女を優しく受け止める。


 風の精霊が離れた私の体には、今度は水の精霊の作る丸い泥水の玉がまとわりつき、そのままリルーセ川に落下した。


 大きな水飛沫が上がる。


「ぶっ……けほ……!」


 ……無事……少女は!?


 花の上を見た。


 横たわった少女が見えた。

 良かったと安堵した瞬間、今度は橋の中から強烈な光が発せられた。


「……何だ……これは……!」


 光に呼応するかのように、私の精霊たちは怯えだす。



 ……奴だ。

 あの大男だ。

 早く、早く逃げなきゃまずい!!


 その予想は当たっていた。


 大男が、窓から顔を出す。

 その瞬間、体が芯から震えだした。


「来い、森の精霊!! 早く!!!」


 とっさに呼んだため、どこに飛ぶか分からない。


 とにかくこの場を離れたかった。


 森の精霊は大きな根を川底に産み出し、私の体を上空へと突き上げた。


 飛んだ瞬間、光を纏う大男と空中で一瞬だけすれ違った。

 大男は私の存在に気が付いていなかった。だが、彼を纏う精霊たちは、明らかに私を狙っている。

 精霊は見ることができない。だが、意思は感じる。


 完全に、私を殺す気だ。


 はるか上空に打ち上げられた私は、急いでリルーセを離れた。

 空中からは、あの男の光が消えていく様子が見える。


「肝が冷える……」


 もう奴に関わりたくない。


 風の精霊を纏い、ばくばくする心臓を落ち着かせるように、深く息を吐く。



 そうして私は、緩やかに南の森の奥へと滑空を始めた――。


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