黒森林の呪い
――白森王時代、エルフの王国マグドレーナ、謁見の間。
大切な我が弟、クロルデンが、罪人として私の目の前に立っていた。
「クロルデンよ、最後に言いたい事はあるか?」
「……フレデ様、いえ姉上。貴方は大切な事を見落としている」
「おい、口を慎め!」
警備員の杖が、クロルデンへと向けられる。
私は片手でそれを制する。
「……よせ」
「姉上……全ては僕の思い通りに進んでいる。
僕は、僕はついに手に入れる事が出来るのだ!」
クロルデンは瞳孔を開き、不気味に微笑んでいた。
黒く淀んだ空気が、彼を中心にあふれ出ている。
「クロルデンを……罪人を早く牢へ連れていけ」
「…………いいえ、フレデ様、牢へ行くのは貴方ですよ」
「……何だと?」
その声は、どこからともなく聞こえてきた。
唸るような、低く恐ろしい声。
私が周りを見渡すと、玉座に座っていた私に向かって、全ての家臣が杖を向けていた。
「……お前達、どういう事だ」
「白森王、貴方の圧政はもう十分です。我々はエルフだけでいいのです。他種族なんぞとは、関わっておれません」
「関わりを持つべきだと申したのは、クロルデン、お前だろう?」
「くっくっく……はて、何の事でしょう?」
その瞬間。
クロルデンの髪が、髪先から黒く染まってゆく。
周囲の部下たちも、同時に黒く染められていった。
そして、私の銀髪も……。
「なっ……クロルデンお前! 黒森林の……呪いだと!!」
「姉上、これは呪いではありませんよ。我々エルフの繁栄そのものです」
「違う! これがどういう事態を起こすのか、分かっているのか!!」
「……全員、呪いを発動させた愚かな白森王を捕らえよ」
「っく……!」
迫る家臣を、森の精霊で防ごうとしたが、しかし……。
「精霊が……呼べない……!」
「愚かな姉上よ、貴方は既に黒森林の呪いに祀られた反逆者だ。精霊など呼べる訳がなかろう」
「私は、何もしていない!」
「貴方はエルフの文化を崩壊させようとしたのだ」
「違う!」
クロルデンの視線は冷たかった。
……いや、彼だけではなかった。
最も信頼していた宰相も、大臣も、そして家臣達も。
そうか、私は…彼らにずっと騙されていたのか……。
そう考えた途端、体から力が抜ける気がした。
「殺せ」
目を閉じた。
マグドレーナの民よ。
愚かな王ですまない。
――その時だった。
マグドレーナ城が大きな振動と共に崩れ始めた。
同時に、私の意識が瓦礫と共に暗闇の中へと吸い込まれていく……。