第六十二話 別れの日
「ふう……」
その日、僕は準備を終えた。
またこの家を出て、本土へと帰ることになる。僕の還るべき場所は、もうここではないのかもしれない。いや、うーん、どうなのかな。
「準備できた? 薫くん」
おねえちゃんが言った。
「うん」
僕はそう答えた。
「おにいちゃん、もう行くの?」
秋奈ちゃんは言った。
「うん」
僕はそう答えた。
行かなければならない。ここはとても居心地が良い場所ではあるけど……。
僕はリュックを背負った。
「行くよ」
僕は言った。
「うん」「うん」
二人は答えた。
「元気でね、薫くん」
おかあさんがそう言ってくれた。
「うん。おかあさんもお元気で」
そう言って僕は靴を履き、出て行った。
家が少しずつ遠くなる。僕は歩いていく。
港に行くと、桃花、向日葵さん、ほたるさんの三人が居た。
「よう薫。黙っていく気かよ」
そういう桃花。
「桃花、見送りに来てくれたの? ありがとう」
僕はそう言った。
「桃花ちゃん、凄く薫くんに会いたそうにしてたよ~」
そういうほたるさん。
「そ、そんなことはしてないし!」
言い訳する桃花。
桃花は、贈り物をくれた。パックされていて中身はわからない。
「つまらないものだけど、あげるよ」
そういう桃花。
「ありがと」
僕は感謝した。
僕は船に乗った。出航していく。
定期船に乗って、本土へ渡る。大した時間はかからないだろう。そこから電車に乗って行くだけだ。
僕は、小さくなっていく島を見つめていた……。




