第四十六話 アイスコーヒー
その日も僕はまた、外を走っていた。
暑さもわずかにマシになってきたが、大した違いはない。灼熱地獄の中、僕は走り続けた。
「ふう……」
タオルで体の汗を拭う。
師匠に動きを習って以来、動きは多少良くなった気もする。敏捷性の訓練も積んでいる。そして、あの『マジックガールズ』の影響もあって、防御も改善してきた気がする。そう考えるとあのゲームも役に立っているのかもしれない。
ここに居られるのもあと僅か。……何か大事な事を忘れていないかと不安になるけど、まあ仕方ないか。ある種のホームシックみたいなものだろうか。
僕にとっては、この島こそ家だ。でもいずれは出て行かなければならない。
それにしても喉が渇いた。何かアイスコーヒーでも飲みたいな……。
僕はそう思って、カフェに入った。
初めて入る店だ。多分あんまり期待できない気もするけど……。レトロな感じで、大きな扇風機みたいのが中にあった。
「いらっしゃい。好きな所に座ってね」
おばちゃんがそう言ってくれた。僕は窓際に座る。
見ると、窓から外を眺める女性が居た。
思えば、以前会ったことのある画家らしき人だ。絵は描けたのだろうか?
「こんにちは。絵は描けましたか?」
僕は聞いてみた。
「ん? ああ、あの時の。今日もランニング?」
女性は言った。
「まあそうですね。このカフェに入ったのは初めてですけど」
僕は言った。
「そっか。ここは中々いい店だよ。私が保証するよ」
そういう女性。何者なんだろうか。
「絵はどんな感じに?」
僕は聞いた。
「ん? 見るかい? 何か恥ずかしいね」
そう言いつつも、見せてくれた。
青い空。青い海。白い砂浜。そして走る一人の少年。
とても綺麗だ。信じられない程美しい絵だった。
「凄いですね。天才ですか?」
僕は言った。
「あはは、ありがと。でも私は、天才なんてものは無いと思うけどね」
そういう女性。
「そうでしょうか?」
僕は聞いた。
「そうだよ。何事も、好きこそものの上手なれさ。誰でもやり続ければ上手くなるし、そうでないと下手になるんだよ」
女性はそう言った。
「わかります。僕も空手が好きで、ずっとやってますしね」
そういう僕。
「ふうん? そうなんだ。私は肉体労働は苦手だけどね」
女性はそう言った。
「私は飯塚って言うんだ。あなたは?」
飯塚さんは言った。
「雨宮です」
僕は言った。
「よろしくね、雨宮君。良かったらそこ、座りなよ」
そういう飯塚さん。
「ありがとうございます」
僕は飯塚さんと相席して、アイスコーヒーを飲んだ。




