第四十二話 焼きそば
ほんの少しだけ、涼しくなってきた。
もう夏も終わりに近づいているのだろう。といっても、残暑厳しい状態ではあるけど。
その日もまた、僕は外を走っていた。本土に戻ったら、また体を鍛えなおさなきゃならない。まあ今も鍛えてはいるんだけど。
朝、朝市が立っていた。
この島において朝市は色んな意味で重要だ。そもそもエンターテインメントに欠けるし、普通に必要なものが手に入るだけでも役に立つ。
「らっしゃい、安いよ安いよー」
見ると、向日葵さんが何か売っていた。とてもいい匂いだ。肉を焼いているみたいだけど。
「やあ、向日葵さん」
僕は声をかけた。
「お、薫くんじゃん。どう? 今焼きそば売っているんだよ」
そういう向日葵さん。
「んー、そうですね。頂きましょうか」
僕はそう言った。
「毎度あり。500円だよ」
僕は500円を払った。
焼きそばはとても美味しかった。野菜が新鮮でとても美味しい。
「素晴らしいですね、これ」
僕は言った。
「そりゃ私の畑で育てたからね。世界一の焼きそばだよ」
笑う向日葵さん。とても綺麗だ。
「向日葵さんは凄い人ですね」
僕は言った。
「ん? 何が?」
そう聞く向日葵さん。
「だって、自分で野菜を育てて売って、自分の力で生きてるじゃないですか。僕はまだまだ、そうはなれませんよ」
僕はそう言った。
「そんなことはないよ。薫くんだって、自分の力で生きているじゃん。この島から出ていけるほどにさ」
そういう向日葵さん。
「そうでしょうか……?」
僕はそう聞いた。
「そうだよ。私にはそれは無理。この島の土と太陽に頼ってるだけだしさ。薫くんにはみんな期待しているんだから、弱気になっちゃ駄目だよ」
そういう向日葵さん。
「そういうものですか。でも向日葵さんは凄い人だし、素敵な人だと思いますよ」
僕はそう言った。
「あはは、ありがと。良かったらさ、手伝ってくれない? バイト代あげても良いよ」
そういう向日葵さん。
「そうですか? それじゃあ手伝いますよ」
僕はそう言って、焼きそばを焼くのを手伝った。




