第三十四話 画家
「あーーーーづーーーーいーーーー」
その日もまた、絶望的に暑かった。
基本的にこの島は涼しいのだ。雨はあんまり降らないけど。
が、そのようなことは完全に無視し、破滅的な直射日光が世界の全てを焼き尽くしていく。
とはいえ、僕は走らなければならない。体を鍛え続けなければならないのだ。つらい。
ミカン畑を越え、砂浜に入った。あまりの暑さに、泳いでいる人すらほとんどいない。
しかし、奇妙な人が居た。
「ん?」
その人は、ベレー帽をかぶって、椅子に座り、ぼけーっとしているようだ。白いキャンバスが置いてある。絵を描くのだろうか?
「こんにちは」
僕は話しかけてみた。その人は振り返った。
「やあ、こんにちは」
女性のようだ。僕よりはかなり年上だろう。服も靴も、庶民が着るようなものではなさそうなお洒落さだ。どう考えても、この島には不似合いだ。
「何をなさっているんです?」
僕は聞いた。
「んー、そうだね。何だろうね……」
いきなり意味不明なことをいう女性。大丈夫な人なんだろうか……?
「絵を描かれているんですか?」
僕はそう聞いた。
「まあね。絵描きだね」
彼女はそう言った。
「しかしまだ何も描かれていないようですね」
「そうなんだよね……」
真っ白なキャンバス。
「何か描いてみたら?」
僕はそう言った。
「何が良いと思う?」
逆に聞く女性。
「んー、何でも良いのでは? ほら、ここには青い空と美しい海があるじゃないですか」
僕はそう言った。
「ん! そうだね。そういう気持ちが大事なのかもしれないね。いや、ついつい難しい物を描こうとしてしまう性格でさ」
何かに気付いたように、彼女はそう言った。
「そういうものですか」
「そういうものなんだよ。君は無い? そういう経験」
「確かにそうかもしれませんね。僕もつい、難しい事をやろうとして失敗することはよくありますよ」
「あはは、そうだよね」
彼女はそう言って、絵を描き始めた。




