第三十二話 難敵
ゲーム内。
お昼時になり、僕達はまたマジックガールズの中に集まった。現実世界は破滅的な暑さだし、もう現実に居たくないよね。
「こんにちは、元気?」
僕は聞いた。
「ええ、もちろんですわ」
アメリーさんが言った。
「魔法カードもたっぷり買い込んでおいたから、いつでも行けるよ」
そういうグレース。
「もちろん私も買いまくっておきました! レアカードも結構手に入りましたよ!」
そういうレナータさん。
「へえ、レアカードなんてのもあるんだね」
僕は言った。
「まあそんなのは多分今のレベルじゃ使えないけどね」
メリッサはそう言った。
「物によるけどね。合成魔法ぐらいなら使えるけど」
そういうグレース。
「合成魔法?」
僕は聞いた。
「いわゆる色を混ぜた魔法だね。赤と青なら紫魔法だよ。滅茶苦茶強いよ」
そういうグレース。
「でもあれ、使うのに課金が必要だと思うんだが……」
そういうシビラ。
「もちろん課金しといたよ」
そういうグレース。
「そ、そうか。悪いな……」
シビラは恐縮している。
「良いの良いの。私はお金持ちだしね」
そういうグレース。
「後半まで乗り込むとなると、多少の課金は必要かもね。『城』とかは欲しいし……」
メリッサは言った。
「最終的に賞金を取れるなら良いけど、難しいからね……」
ミレーヌは言った。
「とことんがめついゲームなんだね。ちなみに城ってのは?」
僕は聞いた。
「その名の通り城だよ。わりとなんでもできる施設だね。追加の施設も買わないと本領が発揮できないけどね」
そういうメリッサ。
「そんなダウンロードコンテンツみたいなのもあるんだね。面倒なゲームだなあ」
僕は言った。
「私の家は貧乏だから、そういうのはやったことないんだよな。どうしたものかな」
シビラは言った。
「まあちょっとぐらいならお金使ってもいいだろうけどね。賞金もあることだしさ」
ミレーヌは言った。
「うーん、悪いな。まあ課金については任せるよ」
シビラは言った。
「それで今何階だっけ? 忘れたんだけど」
そういうおねえちゃん。忘れっぽい。
「忘れないでよ。26階だよ」
メリッサはそう言った。
「理想としてはボスも倒したいな。そういうパーティーを組もうか」
シビラは言った。
「いや、油断は禁物だよ。少なくともテレパスが居ないと危険すぎる」
オリアーヌは忠告する。
「ここから更に悪役が出る可能性は高まるからね。私は必須だよ」
メリッサが言った。
「そうだな。まあ、前線三人とメリッサ、グレース、後一人は、アメリーさん、お願いできますか」
シビラは言った。
「私ですか? よろしいので?」
アメリーは聞いた。
「ボスに挑むとなれば回復役は絶対必要ですしね。保険ですよ」
そういうシビラ。
「そういうものですか。私は構いませんが」
アメリーは言った。
「よし、それじゃ出撃メンバーは集合してくれ」
シビラはそう言って、メンバーを集めた。
教室から26階へワープ。
暗闇の海が広がる。光が見えない漆黒の海だ。
そこから27階へ……。胸まで水に浸かる。
「……《超能力:感知》」
メリッサが能力を使った。
ピピ、と言う音と共に、★キングシャークと表示された。
巨大な鮫が襲ってくる!
「! 《超能力:帰還》!」
すぐさまメリッサが撤退の能力を使う。しかし、すぐには発動できない。鮫が来る!
グシャ、と腕を噛まれてしまった!
「うわ!」
驚く僕。ヒットポイントが一気に減ってしまう。まずい!
「ああ! 《白魔法:治癒Ⅲ》!」
アメリーさんが回復してくれる。鮫は縦横無尽に泳ぎ、襲い掛かる。
「時間を稼いで! 何とか!」
叫ぶメリッサ。危険な状況だ!
「くっ!」「ちい!」
ミレーヌ、シビラも戦闘態勢に。しかし海のフィールド、素早く動く鮫は、どこから攻撃してくるかわからない。
右後ろから僕の方に迫って来る。向き直り、対抗する。
思い出せ、あの感覚を!
「ふっ……」
すっと、僕は左にかわした。鮫は通り過ぎ、振り返ってまた襲い掛かる。
またかわそうとするが、水が邪魔して上手く動けない。お腹に噛み付かれ、ダメージを受けた。
「くう……」
痛みはないが、まずい状況だ。
「《白魔法:治癒》!」
アメリーさんが回復してくれる。
「《赤魔法:雷撃》!」
グレースの攻撃。しかし相手は水の中に居て、ダメージが薄い。
「発動までもう少し…… もう少し耐えて!」
メリッサはそう言う。帰還能力が頼りだ。
更に襲い掛かる鮫。完全に僕をターゲットにしたようだ。
「逃げて、薫くん!」
叫ぶおねえちゃん。しかしもう逃げるわけには!
何とか受けようとするが、タイミングが合わない、速すぎる!
ガシュ、と腕を噛まれ、ダメージを受ける。
「……《白魔法:治癒Ⅱ》!」
アメリーさんが回復してくれる。アメリーさんが居てくれてよかった。
「あと僅かだよ、何とか!」
叫ぶメリッサ。更に鮫が襲い掛かる。
その牙に合わせ、僕は腕を回し、弾いた。
※《拳技:回し受け》を習得しました※
「おお! やったね、おにいちゃん!」
メリッサはそう言った。能力が発動し、僕達は帰還した。
「ふう……」
僕達は始まりの街に帰還した。ヒットポイントが回復する。
「危ない所だったね。怖いゲームだね、これ」
そういうおねえちゃん。
「サメに襲われるとか、なかなか現実でも体験できないしな」
そういうシビラ。
「体験しちゃうと多分死ぬしね。そういう意味では貴重なゲームなのかも……」
そういう僕。
「それにしても、見事な動きでしたね、カオリさん」
そういうアメリーさん。
「いやいや、危ない所でした。アメリーさんこそ、回復してくれてありがとうございます」
僕はそう言った。
「いえいえ。お役に立てて光栄ですわ」
アメリーさんはそう言った。
「今日はもう、進むのは無理だね。また明日になれば消滅するから、明日行こう」
そういうメリッサ。
「そうだね。おつかれさま」
オリアーヌはそう言って、ログアウトしていった。




