第一話 海を眺めて
ざばーん…… ざざざ……
ざばーん…… ざざざ……
波が来る。寄せては返す。
ざばーん…… ざざざ……
ざばーん…… ざざざ……
美しき海。ああ、僕は、幸せだ……。
「ちょっとそこの廃人」
そんな厳しい言葉をかける女の声。よく覚えている。
「お姉ちゃん」
僕はそう言った。
「まったく、やっと帰ってきたと思ったら何で海を眺めてるわけ? そんなのいくらでもできるじゃん」
呆れるお姉ちゃん。
「何言ってるんだよ! 都会じゃ海を眺めるなんてできないんだよ。そんな暇は無いしね。ああ、僕はこのまま海を眺め続けたい……」
そんなことをいう僕。
「薫ったら、すっかり都会に疲れてしまったのね。秋奈も何か言ってやりなよ」
お姉ちゃんはそう言った。
「お兄ちゃん、人生はまだ長いんだよ。老け込むのはあと30年ぐらい後にしなよ」
秋奈ちゃんはそう言った。
この二人は僕のイトコだ。一美お姉ちゃんは一つ上で、秋奈ちゃんは一つ下。お姉ちゃんはスポーツ万能だし、秋奈ちゃんはとても頭が良い。背も高く大きいお姉ちゃんと、小さくて可愛い秋奈ちゃん。対照的だ。
「まあ、そうかもね、ただいま、二人とも」
僕は振り返って、そう言った。
「おかえり、薫くん」
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
二人はそう言ってくれた。