第二十二話 思い出
その次の日、僕は釣りをしていた。
桟橋で釣りをすれば、ある程度は釣れるはずだ。しかしその日は何故か悲しいほどに釣れなかった。まあそういうこともあるけど、勘が鈍ってるのかなあ……。
釣り糸を垂らしてぼーっとしていると、一人やってきた。向日葵さんだ。
「や、薫くん」
そう挨拶してくれた。
「どうも、向日葵さん」
僕はそう言った。
釣り糸には反応が無い。時間が流れる。
「釣れる?」
「いや……」
どうも釣れそうにはない。今日は魚もお休みしているんだろう。
「薫くんは、幸せ?」
そう聞いて来た。
「何故そんなことを?」
僕は聞いた。
「だってさ。薫くんって、本当の両親は離婚しちゃったんでしょ。恋しくないの?」
そんな風に聞いて来た。
「別に……」
僕は言った。
「どうして? 普通は両親が好きなものでしょ」
向日葵さんはそういう。
「そうかもしれませんね……」
僕はそう言った。
「そうでしょ? 本当の両親って、とても大切なものよ」
向日葵さんはそう言った。
「でも僕の父は、もういなくなってしまいましたし。母も入院してますから」
僕は言った。
「……そうなんだ。お母さんとは?」
聞く向日葵さん。
「会うこともありますけどね。……でも、僕は春風家の子供だったら良かったなって、そう思うんです」
僕は言った。
「そっか……。ごめんね、変な事聞いて」
そういう向日葵さん。
「良いんですよ。おねえちゃんも、そういう事はもう聞いてくれませんし。色んな人に迷惑をかけてしまったなって、そう思うんです」
僕は言った。
「……」
向日葵さんは、黙った。
釣り糸が反応する。どうやらかかったようだ。
「お、来たね」
向日葵さんは言った。
「よし!」
僕は頑張って、小さいアジを釣り上げた。