第八十三話 尊敬する人
その日も僕は、朝早くからゲーム内に潜った。
ゲーム内の城を歩き回る。さすがに誰も居無さそうだ。僕は大学へと行った。
大学か……。僕としてももちろん大学は第一目標だ。ちょっと憧れもある。道端に落ちていたサッカーボールを蹴った。
図書館がある。もの凄く綺麗だ。本の置き方も変わっていて、あんまり現実感はない。螺旋状に無限とも言えそうな本が置かれている。もっとも、大半はくだらない本みたいだけど。
そうしていると、本を読んで椅子に座っている女の子を見つけた。グレースだ。
「おはよう、グレース」
僕はあいさつした。
「お、カオリちゃんか。おはよう」
挨拶してくれるグレース。また本を読んでいる。
「何を読んでるんですか?」
僕は聞いてみた。
「歴史の本だよ。古代ローマの本だね」
グレースはそう言った。
「古代ローマですか。そういえば、クイズゲームでもそんな問題が出てましたね」
僕は言った。
「へえ、クイズゲームなんてやったんだ? あんまりカオリちゃんには似合わないけど」
そんなことを言うグレース。
「酷いなあ。まあカトリーナちゃんがやりたがったんですけどね」
僕は言った。
「やっぱり凄い人は居るんだなあ、とか思ってね。薫くんは尊敬する偉人とか居るの?」
そう聞くグレース。
「んー、そうですね。リンカーンとかでしょうか」
僕は適当に言ってみた。
「あはは、似合わないよ、薫くん」
そういうグレース。まあそうかもね。
「向日葵さんはどうなんですか?」
僕は聞いた。
「私? んー、そうだね。源頼朝とかかな」
そんなことを言う向日葵さん。
「マジですか? イマイチ賛否両論だと思うんですが……」
僕はそう言った。
「きちんと将来の事を考えてる人が好きなんだよね。行き当たりばったりじゃなくてさ」
向日葵さんはそう言った。
「向日葵さんはどうなんですか? 農家では満足できないんですか?」
僕は聞いてみた。
「いやいや、そんなことは無いよ。農家だって楽しいしね。ただ世の中は色々動いてるし、最新技術も取り入れたいしね。スマート農業ってやつだよ」
そういう向日葵さん。
「そうなんですか……。やっぱり立派な人ですね、向日葵さんは」
僕は言った。
「ありがと。薫くんも本読みなよ。きっと何かの役に立つよ」
向日葵さんはそう言った。
「ありがとうございます。んじゃ、ちょっと読んでみようかな」
僕は本を読むことにした。それにしても、凄い蔵書量だなあ……。