4 決めた
咲希ちゃんに愛されたい。初めてそう思った。これまでは咲希ちゃんに対する好意が頭を占めていたのだが、それだけでは満足できない。一方的に愛するだけではダメなのだ。咲希ちゃんからも求めてもらわなければ。
夜、私は考えていた。
愛してもらうにはどうすればいいのか。
この問題は早くから私を襲った。恋に遭遇し、最初に考えようとした項がこれであった。そしてこれほどの難問はなかった。
恋は苦しいものだと聞くが、決して苦しみはしなかった。咲希ちゃんについての事項を考えれば、そのたびに私は探検家のような気分になった。未知への探索であった。
一時間、二時間と愛されるための方法を考えていたが、良い案は思い浮かばなかった。それはそうかもしれない。簡単に思い浮かぶなら、誰も恋について思い悩んだりしないだろう。解決方法が分からないから、分かったとしても実行する勇気がないから、考え悩むのだ。
仕方ない。今日はこのままでいいや。また考えればいい。時間はたくさんあるんだ。じっくり考えて名案を出せばいい。
私には計画を実行する勇気はあった。他人は一歩を踏みとどまり、なかなか先へ進もうとしないだろう。しかし、私には踏みとどまるという発想がなかった。進むことが当然だと思っていた。他のことでは湧き出なかったであろう勇気。恋こそが例外なのだ。
けれども、恋を計画立てて解決しようとするなんて、少し卑屈なのかもしれない。自然の成り行きに任せず、自己の意志で二人の関係を進めようとする。それによって完成された関係は、潔白の結果とはいえないだろう。
それの何が問題なのだ。過程が完璧に純粋である必要ない。関係自体になんの汚点もなければそれでいいじゃないか。細かいことを気にしていたら、手に入れられるものも手に入れられなくなる。それは避けなければならない事態だ。悪い結末。なので多少の欠損は、許容しなければならない。
今日は眼鏡をかけていなかった。考え事をするとき、世界は不明瞭なままでいい。世界が不明瞭であると、自己の内部に入っていきやすくなる。私自身に意識を研ぎ澄ませるためには、他のことを考えてはいけないのだ。
策略を巡らすということは、咲希ちゃんを騙すことになるだろう。そんなこと、できればしたくなかった。しかし目的を捨てるのはもっと許されない。一方を犠牲にして、より大きなものを得るのだ。
罪の意識は奥深くに眠っていた。表面上に浮き上がってこようとするそれを、私は必死に押さえつけた。
そして何故か私はこの策略がうまくいくと確信していた(まだ具体的な案は、何も思いついていないのに!)。愛のために行動を起こす人間がいるとは、疎い咲希ちゃんなら夢にも思わないだろうし、その愛が自分に向いているなんて絶対に考えない。そんな彼女に、私に対する好意を起こさせるなんて、難題のように思われる。策略が巡らされていると、咲希ちゃんに気づかれないようにするのはもちろんであり、彼女の意識に私への好意を、自然に植え付けなければならない。
そんな都合の良い方法が存在するのだろうか。
いいや、私が創り出すのだ。既存のものを組み合わせて、どうにかこうにか練りだそう。
そうだ。これまでにある方法を知るために恋愛小説でも読もうかな。未読の恋愛小説は家にないから、買いに行かなければならない。学校の図書室にも本はあるが、私は買って読むほうが好きだ。いつでも好きなときに読み返すことができるし、何より自分で買った本には、返却期限というものが存在しない。手に入れてもいつ読むか分からなのだから、ずっと家に置いておきたい。買ってから一年たつ未読の本も本棚にはあった。
これから計画を……、咲希ちゃんを手に入れるための計画を考えて、実行することが今の私のなすべき仕事だ。