19 転換のきっかけ
友佳ちゃんにお土産を渡そうとしたとき、短時間ではあったが、咲希ちゃんははっきりと怒気を見せていた。以前、謝ろうとして泣いてしまった彼女が、友佳ちゃんに対して怒ってみせるなんて考えてもいなかった。咲希ちゃんはいつも穏やかで、自分から突っかかっていったりはしないはずだ。そのイメージに反する行動を咲希ちゃんはした。私の驚きは相当なものだった。これまでの咲希ちゃんが崩れ去るような気配がした。しかし咲希ちゃんは私のために怒ってくれたのだ。なので咲希ちゃんを嫌いになることはなく、むしろより強く咲希ちゃんに好意を寄せるようになった。
咲希ちゃんを変容させるほど、計画の与える影響が大きくなるとは、当初思ってもみなかった。滞りなく事態は進行していき、終幕を迎えるものだとばかり思っていた。そうはいかなかった。私たちは咲希ちゃんの異なる一面を引き出してしまったのだ。予定にない出来事だった。
咲希ちゃんの憤りは、不思議と私の心に残ったままになっていた。たしかに咲希ちゃんが怒るなんて珍しいことではあるが、それほど注目すべき事柄ではないはずだ。友達のために行動を起こすなんて、咲希ちゃんにとっては当たり前の出来事だろう。
ならばなぜいつまでも私の心に居座っているのか。考えてみたが分からないままだった。自分の中に原因不明の感覚がわだかまっているなんて薄気味悪かった。
この薄気味悪さがきっかけとなり、計画にそろそろ別の行動を加えてみようと考えることになった。いつまでも友佳ちゃんが断っていたら、いくら咲希ちゃんでもその態度を不審に思ってしまうだろう(幸いにも今は不審がられていないみたいだが……)。なので受け入れてみてはどうだろうか。といっても完全に仲直りするわけではない。もし次に友佳ちゃんが何かプレゼントされたら、素直に受け取るけれども、仲直りしたわけではないみたいに、喧嘩は続いているけれど、相手の提案には乗るようにしてもらおう。そうすれば対応に変化をつけられ不自然ではなくなるだろう。
もっと早くこの考えを思いついていればよかったのかもしれない。今まではあまりにも平坦すぎた。これからは作戦に変化をつけて、だらだらと長引かせないようにしよう。短期決戦だ。
そうと決まれば、明日の昼休みにでも友佳ちゃんを空き教室に呼び、今考えたことを話しておかねば。話し合いでは拒絶をやめたあと、どのような対応をするかも決めておこう。素直に受け取っただけじゃ、とても行動的とはいえない。私と友佳ちゃんの作られた関係を積極的に変化させていき、咲希ちゃんとの距離をもっと縮めていくべきだ。私は行動的になりたかった。