17 ストッパー
今後の作戦についての話をするため、昼休みの時間に友佳ちゃんを空き教室へ連れていった。複数回この部屋を使っているので、私たちは滞りなく各々の席についた。
椅子に座って早々友佳ちゃんは私に質問してきた。
「で、どうだったんだ?」
「遊園地のこと? 焦んないでよ。もう!」
「焦ってねーよ! 優雨が訊いて欲しそうだったから訊いたんだ!」
「訊いて欲しそうに見えた?」
「ああ、見えたぞ。あたしに話しかけてきたときも、なんかうきうきしていたし、これはくだらないことを聞かされるなと思って来たんだ」
「うーん、話すつもりはなかったんだけど、聞きたいなら聞かせてあげるよ」
「んじゃ、聞きたくない」
「酷いなー」
「なんで文句言うんだよ! 聞いても聞かなくてもどっちでもいいだろ!」
「それはそうだけど、できれば聞いて欲しかったなー」
「じゃあ、聞かせてくれ」
「やっぱり聞かなくていいや!」
「なんでだよ! せっかく聞く気になったのに話さないのかよ!」
「なんだか意力が薄れちゃった」
「それじゃ、最初から話そうとするなよ……」
「ごめんね」
友佳ちゃんは一つため息をついた。
こうやって気兼ねなく感情を表に出すのも、私たちの付き合いが永いからだと思う。普通の人に対しては、遠慮気味になってしまい、自分の感情を素直に表現しないだろう。……友佳ちゃんに関しては、そうとは限らないのかもしれない。
そろそろ頃合いだと思い、友佳ちゃんを呼んだ目的について、話を始めることにした。
「遊園地で友佳ちゃんにお土産を買ってきたんだ」
「あたしに?」
「それを今度、咲希ちゃんの前で渡そうと考えているの」
「……作戦の続きか」
「そうなるね。咲希ちゃんは、遊園地に行かなかった友佳ちゃんを悔しがらせるために買っていくんだ、とか言っていたけれど、理由はどうでもいいと思う。友佳ちゃんにはお土産を受け取らないで欲しい。そんなものいらない、とキッパリ断って」
観覧車に乗ったとき、私と咲希ちゃんの距離はぐっと近づいたように感じた。けれども、何か、確実な一歩が足りないと思った。最後の空白を埋めるためにまだまだ時間が必要なのだ。作戦を長引かせなければいけない。ここで完了としてはいけない。
「わざわざ買ってきてもらったのに悪い気もするな。でも分かったよ。受け取らないようにするよ」
「うん。ありがとう」
昼休み終わりまでまだ時間があったので、私たちは他愛のない話を始めた。それは最近起きた出来事の話だったり、自分が夢中になっていることについての話だったりした。お喋りに夢中になっていると、時間の経過というものが感じられなくなった。時間は知らずのうちに過ぎていった。
話題が途切れたとき、
「でもやっぱりなあ……」
と言って友佳ちゃんは頭の後ろの方をかいた。
「どうしたの?」
「いや、二瓶さんとそろそろ仲直りしたほうがいいんじゃないかと思って……。こう何度も騙していると気が引けるっていうか……、二瓶さんに申し訳ないという気持ちになってくる。最初は軽い気持ちで協力しようとしていたけれど、今は正直に言って、あんまり乗り気じゃないんだ。だからこのまま計画を進めていいものかと考えていて……。そろそろ終わりにするのも手だと思う」
「ずっとそのことを考えていたの?」
「まあ……、な」
友佳ちゃんは曖昧に笑っていた。
咲希ちゃんに対して申し訳ないと思う気持ちは、私もよく分かる。分かっているつもりだ……。でもだからといって、ここで妥協することはできない。中途半端に終わらせたら、ここまでやってきたことが無意味になってしまう。それだけは避けたかった。ここまで計画を進めた以上、後戻りはできない。ならば前進すべきだ。どんな困難が待ち受けていようとも、予測不可能なことが起ころうとも、気を緩めるのは、諦めるのは、許されていないのだ。前進あるのみ! 前進あるのみ! 私の意志は固く、誰にも邪魔することはできない……。
なので友佳ちゃんの提案は飲み込めなかった。
「友佳ちゃんがやめたいのならやめてもいい。けれども私は作戦を続行する。誰がなんと言おうともここでやめたりしない」
「別にやめたいだなんて言ってない。ただ、そろそろ終わりにしたらどうかと、言ってみただけだ。というか、ここであたしだけ抜けることはできない。やめるなら優雨と一緒にやめたいし、優雨が続けると言うのならあたしも続けるよ」
「そう……」
友佳ちゃんはこの計画から抜けたいのかと、早とちりしてしまった。
私の言い方は冷たくなかっただろうか。友佳ちゃんを突き放すような言い方をしてしまわなかっただろうか。
友佳ちゃんが計画を否定しているように感じられたので、思わず拒絶するような口調になっていたはずだ。その誤解が解けた今、乱暴な言い方をしてしまったことを後悔している。友佳ちゃんの真意をはっきりと見定めてから、私の態度を決定すべきだった。真意が冷たいものであったら、今したように拒絶すればいいし、真意が安心できるものであったら、友佳ちゃんを肯定するだけだ。
失態をなかったことにしようと思った。話の流れを操り、私がとった冷たい態度を取り消そうとした。
「そうだよね! 友佳ちゃんが中途半端にやめるだなんてありえないもんね!」
「ああ、勝手にやめたりしないよ。優雨の計画なのだから、優雨がやめると言うまで付き合っていくよ」
「うん。ありがとう、友佳ちゃん。私のわがままなのに巻き込んじゃってごめんね」
「そんな謝ることじゃないさ。あたしにも優雨のためになりたいという気持ちがあるからな。優雨は余計なことを考えなくてもいいんだ」
「そうかな……?」
「むしろあたしのほうこそごめんな、優雨を惑わすようなこと言ってしまって。仲直りしたほうがいいんじゃないか、なんて言わなければよかったな」
「友佳ちゃんが協力してくれると知れただけで十分だよ」
「そうか……」
予鈴が鳴った。




