里奈先輩
プールに行った次の日。
俺は、あくびをしながら美咲の家に向かっていた。
昨日家に着いたのは九時。
それから晩御飯やお風呂に入ったので、寝る頃にはもう十時だった。
それだけならまだいいが、バスの中で寝てしまったのでなかなか寝られず、夜中の二時まで起きてしまった。
起きたのは七時。
寝不足の俺は、美咲と一緒に学校に行くために美咲の家に向かって歩いていると、声が聞こえた。
「風峰くーん!」
後ろから声が聞こえる。
そして、こっちに近づいてくる足音。
「あ、里奈先輩。おはようございます」
俺は先輩の方を向いて、挨拶をする。
「あれ? 目の下にクマができてるよ?寝不足?大丈夫?」
里奈先輩は、俺の顔をじっと見る。
里奈先輩、月宮里奈先輩は、俺が小学生の頃から仲がよく、今でも話したりしている。
今俺の目の下にできたクマを気にするように、とても面倒見がいい先輩だ。
里奈先輩は、いつもテニス部の朝練があるはずなのだが、この時間に会うということは、今日は朝練はないのだろう。
「で、風峰くんは美咲ちゃんのところに行くの?一緒に行っていい?」
「別にいいですよ」
「よし、それじゃあ行こう!」
里奈先輩は、俺の手を握る。
「な、何ですか先輩⁉︎」
「昔、よく手を繋いでたじゃん」
「いや、でも……」
「さあ行こう!」
俺と里奈先輩は、手を繋いだまま美咲の家に向かって歩き出した。
「あれー?返事がないなー?」
里奈先輩は、美咲の部屋のドアをどんどん叩いたり、インターホンを連打したりした。
しかし、美咲の返事はない。
「まさか、まだ寝てるのか……?」
「それじゃあ起こさないと!風峰くん、携帯出して!」
俺は、言われた通り携帯を出す。
電話しようと言うと思ったので、俺は美咲の携帯に電話をかける。
「まだ携帯出してしか言ってないのに美咲ちゃんに電話した……⁉︎まさか風峰くん、私の心を……」
「読めないです」
「もしかして、私のことが好きだから私の考えが読める……」
「そんなんじゃないです。」
「風峰くん……なんか冷たくない?」
先輩はいつもこんな感じなので、いつもこんな感じの対応をしている。
「あっ、出た。もしもし、美咲」
「ふぁぁ……ん?何、どうしたの?モーニングコール?」
「まあそんなもんだ。それで美咲、今起きたのか?」
「うん、そうだけど……」
美咲は再びあくびをする。
おそらく美咲も夜遅くに寝たのだろう。
「早く起きないと遅刻するぞ。待っててやるから早く支度しろ」
「あ、じゃあ入っていいよ」
足音が聞こえる。
美咲が玄関に向かって走ってきているのだろう。
そして、ドアが開く。
そして、パジャマ姿の美咲が現れた。
「ごめんねー、昨日寝るの遅く……て……」
美咲は下の方を見る。
俺は、美咲の見ている場所を見る。
「あっ……」
俺は、まだ里奈先輩と手を繋いだままだった。
「まさか……私振られた……!」
「いや違う!里奈先輩が無理やり……」
「風峰くん、いきなり優しくて面倒見のよくて胸の大きい先輩が好きだーって抱きついてきて……」
「先輩!嘘つかないでください!」
「風峰の裏切り者ー!」
「美咲も騙されるな!」
「……ま、嘘だってわかってるけどね。私は、風峰が嘘ついたり裏切ったりしないって信じてるから」
美咲は俺が嘘をつかないと信じてくれているが、妹だということを隠してすまないと、心の中で謝った。
「それじゃ、入ってどうぞ」
「お邪魔しまーす」
里奈先輩は、靴を脱いで奥へ入っていく。
「風峰もほら、早く」
「おう」
俺も靴を脱ぎ、奥へ入っていった。