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請負人と交錯都市

交錯都市『ジャンクシード』、という街がある。


マクロナルド王国の中央に位置する王都より、北西へ進んだところにある大きな街である。


王都からは、馬に乗って二週間、馬車で三週間ほど、徒歩ならば一ヶ月はかかるであろう土地である。


マクロナルド王国は広大な土地を持っており、街から街へ行くのに長時間かかるのは、然程珍しい事ではない。


いや、本来ならば、広大な土地を持っていればこそ、街と街の区間をより短くし、連携を密にしなければならないのだが………。


形としては専制君主制を敷いているマクロナルド王国であるが、その実態は各街を統治している貴族による自領自治がなされていた。


それは、都市外を跋扈する悪鬼の存在が原因となっていた。


悪鬼とは、古来より脆弱な人間を餌としてきた怪物であり、人々が恐れ嫌悪する悪魔である。


残忍で凶悪な性格をしている上に、大抵の悪鬼が人を圧倒する力を持っており、並の人間では逃げる事さえ能わない。


そんな化け物がのさばっている為、都市外へ出る人間など少数であり、街と街の連携を取る事が非常に難しいのだ。


更に言えば、今さら街を増やして国を完璧に一つにしようとしたところで、それに賛同する貴族は極少数であろう。


自領自治を行っている貴族からすれば、今さら権利を縮小させるような事ができるか、といったところであろう。


そういった事情もあり、各貴族による自領自治は今や当然の事となっていた。




そしてそれは、交錯都市『ジャンクシード』においても例外ではない。


『ジャンクシード』はマクロナルド王国の上級貴族である、スコッツ侯爵の統治する街だ。


自領自治の性質上、マクロナルド王国内に点在する幾つもの街は統治者である貴族の意向を反映するものであり、街によっては奴隷制度があったり、貧富の差が顕著であったりもするが、『ジャンクシード』もまた、かなり特殊な街であった。


『ジャンクシード』の何が特殊なのか。


それは、この街が「他種族差別の絶対禁止」、「他種族交流の全面推奨」を掲げているからだ。


マクロナルド王国が存在する大陸には、人以外にも様々な種族が存在する。


あらゆる動物の特徴(耳や尻尾等)を持つ獣人や、魔術と呼ばれる手品のような技を得意とするエルフ、手先が器用で鍛冶や細工を得意とするドワーフや、知性を手に入れて人を襲わなくなった悪鬼の子孫であるとされる鬼人など、数多くの種族がいる。


これらの種族が全て一丸となっているかと言うと、やはりそれは難しい問題であり、特に人は他種族を排斥する傾向にあった。


マクロナルド王国内の幾つかの街でも、他種族を受け入れず人のみで生活している街もあり、そうでない所でも、人によっては嫌悪したりする。


そんな中で、スコッツ侯爵家は代々他種族との交流を推進してきた、非常に奇特な家系なのである。


そのスコッツ侯爵家に統治させている『ジャンクシード』の領民も、この街ができて百年以上経つ今となっては、他種族との交流を当たり前のものとして認識していた。


更に、先代のスコッツ侯爵家当主であるオスカー・スコッツは、代々続いていた他種族との交流に加え、「他国民交流の全面推奨」までしてしまった。


大陸にはマクロナルド王国以外にもいくつかの国があり、オスカー・スコッツはそういった他国の民でさえも、受け入れようとしたのである。


この政策は交錯都市の更なる多様化を狙ってのものであったが、結果的には半分成功、半分失敗というものだった。


失敗した理由としては、幾ら受け入れるとは言ってもそう簡単に他国民が来るはずもなく、悪鬼の被害に怯えながらわざわざ移転する者がほとんどいなかったからである。


だがしかし、それでも幾つかの国から移転者が来る程度には、『ジャンクシード』は魅力的な街であったらしい。


土地柄は良く、あらゆる種族がいるお陰で様々な文化(食文化然り、芸術文化然り)が発展しており、大陸で最も愉快な街として有名だったのだ。


そして、オスカー・スコッツの政策によって他国民が移転した事によって、更に多様且つ高度な文化が発展していく事となった。


今や『ジャンクシード』は、あらゆる種族、あらゆる国民が集う、一大都市へとなっていたのである。




その『ジャンクシード』に、とある壮年の男がいた。


その男が住んでいるのは、第三区画と言われる、商業に携わる人間や店等が多く集まる区域である。


『ニコニコ雑貨店』という胡散臭い店の上、木造二階建ての建物の上階に、その男は住んでいる。


建物の下階は『ニコニコ雑貨店』であるが、上階はその胡散臭い雑貨屋とは別の店となっている。


いや、胡散臭さでは引けを取らないかもしれないが、少なくともデカデカと看板が打ち付けてあったりはしない。


雑貨屋の裏にある階段で登って行くと、簡素な扉の横に無造作に看板が置いてある。


その店こそ、知る人ぞ知る依頼請負人(コントラクター)であり、自他共に認める無精者である壮年の男ーーートールが営む、依頼請負店なのである。


その店の名はーーー『ジャンクライフ』


あらゆる依頼(主に戦闘絡み)を渋々ながらこなすトールの店へ、今日もまた、厄介な依頼を持った客が訪れる。

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