乙女ゲーの悪役令嬢転生して、ヒロインに近付いた結果・・・
前世の記憶を取り戻したのは、8歳の時に婚約者となるトマス王子と出会った時だった。
第一印象はおさまりの悪い黒髪に青い目をした彼にこう思った。
あ、この子、イケメンだな。
イケメンな兄が三人(一人は私の双子の片割れ)いたけど、トマス王子は家族じゃないイケメンだったから次に見る機会はないだろうと、ついガン見してしまった。
が。
なんだろう。
兄たちを見ていても時々、おかしな気分になるのだが、トマス王子を見ているとそれが強く出てきた。
なんで、トマス王子まで?
わけがわからなくて混乱しているうちに頭の中に成長した兄たちやトマス王子の背景なしの絵が出てきて、甘いセリフを口にしているのが浮かんだ。
家族のそんなセリフなんて聞きたくなかった。
その変な現象に驚愕するより、身内が口説いている姿にダメージを受けて私は倒れた。
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どうやら、私は逆ハー系乙女ゲーム『恋はバーニング~冷めさせてくれない熱に焦がれて~』の世界に悪役令嬢カイラとして転生していたらしい。
婚約者であるトマス王子と兄たち(次兄と双子の三兄)を攻略対象にしたら、悪役令嬢がいくつものルートで使いまわしできると考えて作られたのがカイラだった(制作秘話として、ゲーム雑誌に掲載されていた)。
ちょっと、待てー!! 使いまわしってどういうことよー!!
ヒロインが選んだ攻略対象に必ず横恋慕して邪魔してくる悪役令嬢のほうがまだマシでしょ! だって、ヒロインが誰を選ぶか考えたように、悪役令嬢にもその人物に好意を持つきっかけがあってもおかしくないし、こんなブラコン確定な(二人の兄の恋路を邪魔する)キャラ設定なんかいらない。
このゲームの怖いところは、カイラは悪事が発覚しても攻略対象の兄たちがいるので没落や処刑はなくても、追放や毒殺が普通にあるという点だ。追放なんかされたら、この貴族の常識しか知らないカイラは娼婦や奴隷にならない限り、生きていく術がない。処刑されたほうがマシという生活が待っているのだ。
目がさめてからweb小説にあったように現代知識を活用して、内政やら技術開発やら、料理の普及、兄たちのトラウマ?のフラグを折りまくって、絶縁されて追放される結末を回避しようとした。
それはもう、死に物狂いだった。
必死になって生きてきて、気が付いたら私は16歳になっていて、16歳から18歳の貴族が主に通う学園を舞台にしたゲームが始まっていた。
ヒロインがゲームと同じように攻略対象者と一緒にいる姿をよく見かけた。『恋はバーニング』で得た知識を活かした転生者なのか、それとも乙女ゲームの世界だから彼らが惹かれ合ってしまうのかはわからない。
だけど、そのせいで攻略対象者の婚約者たちが、攻略対象者の中で一番地位の高いトマス王子の婚約者である私のところにやって来て、諫めるように頼んでくる。彼女らの立場と身分ではいくら言っても、トマス王子の一言で覆されてしまうから、だそうだ。
こうなる前にトマス王子や兄たち(次兄は2つ上なので学園の最終学年にいる)にもそれとなく「婚約者がいるのに他の女性を取り合う殿方の一人なのが情けない」と言ったのだが、攻略対象者にはあまり効き目がない。
これが逆ハー系乙女ゲームの特色か?!
『恋はバーニング~冷めさせてくれない熱に焦がれて~』は自分以外の他の男を侍らしていても気にならず、振られない限り攻略対象者が冷めない超イージー乙女ゲーなので、二人以上の逆ハーは当たり前。
確かにこれだったら、一人が冷めても別の誰かと必ず恋愛できるだろうという設定。
でも、そのせいで私は放っておくこともできない立場(他の攻略対象者の婚約者たちに呼び出されてヒロインと対峙させられた)。
追放で野垂れ死に(奴隷or娼婦)は勘弁。
って、この時点でそれはもう逃げられないか。
いいや、ここで良い人アピールして、いざとなったら「お友達だからイジメないよ」とヒロインにかばってもらおう。
他の攻略対象者の婚約者が納得できる口実やらなにやらを付けて連れ出さないと彼女たちが暴走するかもしれない。
まずは引き離して、二人きりになったところで謝って、良い人アピールだ。
なんて打算だらけで、血の気の引けた顔をしているヒロイン(羨ましい胸の持ち主)に話しかける。
「貴女がリビー・アレンですの? 貴女の見苦しい姿は見るに耐えませんわ。わたくしが指導してあげてもよくてよ」
周りに人がいるから直球を言えなくて、高飛車に言ってしまった。高位貴族はこういった点で不利だ。
そして、高位貴族にこう言われたら平民どころか、子爵家や男爵家の令嬢ですら、「よろしくお願いいたします」と口にしなくてはいけないのは暗黙のルール。
呼び出されて何事かとビクビクしていたヒロインは「い、嫌です」と初っ端からルール違反をした。
だーかーらー、それが駄目なのよ。見苦しい姿って言うの。
ほら、他の攻略対象者の婚約者たちが怒り狂ってすごい顔をしている。
このヒロインの怯えた様子だと私の追放は確定?! この現場を見られたら即アウトだ!
いいえ、いいえ。まだ、大丈夫よ。
「これは申し出ではすまないわね、リビー・アレン。アデルフェルト公爵令嬢であるわたくしが命じます。わたくしと一緒にいらっしゃい」
「そんな、お、横暴だわ!」
公爵令嬢の命令なんて使わないといけない状況に追い込んでくれたヒロインは、やっぱりマナーもルールもわかっていなかった。
はいはい。無邪気でよかったわね。
ちゃんとわかるようになったら、自分がどんなに馬鹿な真似をしでかしたか蒼白になるレベルだわ。
貴族は領民の罪を問い、断罪する権利がある。ヒロインは私の領民ではないけど、貴族は口実さえあれば平民を殺しても無罪放免なのが今のこの国の現状だ。市民が~と言い出すにはあと何百年もかかる。
だから、貴族に口答えしても大丈夫な平民はいない。いるとすれば、官吏や兵士のように職業柄守られている人物だけだ。
学生に平等を掲げる学園ですら、本当はそうではない。
ただ、貴族の学生の中に将来、王族や高位貴族に仕えることになる良識的な人物が多く、平民の学生も貴族との違いや将来の絶対的な身分差がわかっているので分を弁えている。
つまり、ヒロインがやっていることも、言っていることも、まともな常識を持つ貴族や平民がしない非常識すぎることなのだ。
前世で言うなら、平日の昼間に電車に異世界物のアニメのコスプレで乗っているようなもんだ。
非・常・識
「公爵令嬢であるわたくしと平民にすぎないあなたが同等であるはずはなくってよ。それに貴女がどのような方と仲が良いと言っても、所詮は平民。その上、マナーも知らない慮外者。恥をかいて顰蹙を買うのは貴女のほうよ」
「・・・! わ、わかりました・・・」
直接指摘して、ようやく理解してくれた。
ふう。
それにしても、ヒロインの反応がおかしいわね。
対等じゃないと言われて反論してくる性格なはずなんだけど、私のセリフが違うから?
「じゃあ、ついてきなさい」
「はい・・・」
なんか本当にヒロインらしくない。
悪役令嬢の私が転生者なんだから、ヒロインも私と同じ転生者なのかも。それもビッチヒロインの厚顔無恥ができないタイプ。
私は攻略対象者の婚約者たちから離れ、中庭までヒロインを連れて行った。
中庭は植物に囲まれた素晴らしいアシメントリーの庭園で、休憩できるようにベンチがいくつも置かれている。私はその一つにヒロインを座らせた。
「リビー・アレン、貴女は貴族に対するマナーがなっていません。このまま学園を卒業した後も同じようにしてしまったら、貴族に殺されても文句は言えなくてよ。いいえ、貴族どころか働くことなどできないでしょう。この国はまだ民主主義ではないのよ」
民主主義なんて言葉はまだこの世界にはない。民主という言葉すらない。ヒロインが転生者でなければ、意味が通じない言葉だ。
「民主、主義。カイラも転生者なの・・・?」
唖然とした様子でヒロインは言う。
私は頷いた。
読唇術を使われても、転生者という言葉の意味がわかる人もいないが、念の為、私は黙っておくことにした。
「よかった。じゃあ、これでもう、無視されることも睨まれることもないのね。あたしが何をやっても気に食わないのか、女の子たちがみんな意地悪してきてこまってたの。カイラが同じ転生者ならなんとかしてくれるわよね?」
ゲームでは描かれていなかったけど、ヒロインはヒロインで大変な苦労があったらしい。
まあ、トマス王子をはじめ、あのハイスペックな攻略対象者たちと一緒にいたら、やっかまれてもおかしくない。
「そのようなことを申されてもわたくしにもできることとできないことがありますのよ。まずは貴女が行動を正してくださらないと、意味がございません」
「そんなあ・・・」
意気消沈されても、攻略対象者たちと一緒にいる限り、私がいくらかばっても焼け石に水だ。それどころか、私に取り入って気に入られたと火に油を注ぐことにもなりかねない。
「わたくしの話を聞いておりましたの? 今のこの国がどういう状態で、何をして良くて、何をしてはいけないかおぼえておかないと困るのは貴女なのよ」
「どうして?」
いくら平民に転生したからと言っても、これはない。
憑依したならともかく、この国で何年も生きているのにその常識がないなんてどうなってんの?!
「街中で馬車のレースがされた話は知ってるかしら?」
「? ええ」
学園のクラス分けは大きく分けて二つ。高位貴族のクラスとそれ以外のクラス。高位貴族のクラスには文字通り伯爵より上の爵位を持つ家と王族が在籍し、それ以外は別のクラスだ。でも、高位貴族のクラスの在籍者に余裕がある時は成績の良い順に貴族と平民の区別なく在籍することが許されている。
ヒロインはそんな高位貴族のクラスに在籍する一人ではないが、貴族の子弟たちの会話だって、耳にすることがある。
今回の話の場合、平民の間でもよく知られている話だろう。
何故なら、被害者は平民なのだから。
この馬車のレースは人の多い街中で無許可で行われるというとても危険なものだった。許可さえとれば交通規制などされてよかったのだろうが、貴族たちが人通りの多い街中でどちらが馬車の操縦が上手いか賭けをして、許可などとらずにそのまま行われた。
平民たちが多い街中を全力疾走する馬に引かれた馬車。逃げ惑う平民たち。運悪く逃げ遅れてはねられた平民は死亡。しかし、貴族たちは「平民がはねられたせいで負けた」とぼやいていたそうだ。
高位貴族のクラスではその話を「何を馬鹿なことをしているんだ」と眉を顰めて話していたが、ヒロインたちのクラスでは「間抜けな平民が逃げ遅れて、レースの邪魔をした」と話す人間もいたはず。
「そのレースをした貴族がどうなったか知っていて?」
ヒロインは首を横に振る。
それはそうだ。その後のことを知っている人物は少ない。貴族なら興味のないことだし、平民ならそれを知らされる立場ではない。
その後を知る権利すら平民は持たない。
「『人の多い街中で馬車のレースなどするな』。それだけよ」
そんな口頭注意も高位貴族の私見でしかなく、公での罪は問われなかった。街中を混乱させたことは反乱や侵略などと結びつけて考えられたけど、貴族の馬鹿騒ぎだったと処理され、平民が死んだことには一切触れられなかった。これはヒロインには関係ないから黙っておく。
遺族に対しても、良くて金貨の何枚かを貰うくらい。悪ければ無視。それが貴族の考え方だ。
「!!」
ショックを受けているヒロインに何故ルールが必要なのか、マナーが必要なのか教え込む。
「つまり、貴族が不注意で平民を殺しても罪に問われないから、貴女を邪魔に思った貴族が貴女を殺すこともできるってことよ。貴女が侍らせている取り巻きの婚約者たちはそのような悪どいことを考えたりはしていないけど、この学園から出て取り巻きのいない状態になったら、貴女の命なんて簡単に消されてしまうわ。今は殿下や他の方の注意が向けられているからいいものの、一時でも彼らを侍らせていた貴女に良い感情を持たない貴族だっているのよ」
「そんな・・・。私だって、好きで彼らと一緒にいるわけじゃないのに、なんで命を狙われなくちゃいけないの?!」
想像通り、ヒロインの顔は蒼白になった。
「それが貴族と平民なの。貴族として生まれたら昔と同じように振る舞うこともある程度できるけど、平民は貴族に気に入られて重用されない限り、どのような形であれ目に留まれば不幸な結末しかない。だから、距離をとるの。学園のクラス分けだって、その一つ。高位貴族とそれ以外の貴族も、貴族と平民に近い身分差があるから分けられているの。貴女の場合、好きで彼らと一緒にいるわけじゃないと言っても、高位貴族と平民が一緒にいるのだから、面白く思わない貴族が多くいてもおかしな話ではないわ」
「じゃあ、私はどうしたらいいの・・・? 好きでヒロインなんかに生まれたわけじゃないのに・・・。女の子たちからは嫌われて嫌がらせはされるし、王子たちはイケメンすぎて見ていられないし。ヒロインらしくしていないと駄目かと思って頑張ったけど、友達もいないから辛いし。王子たちを避けようとしても避けられないし・・・。ねえ、どうしたらいいの?」
ヒロインはヒロインであることを望んでいなかったのか。
私は兄たちがストーカーだと打ち明けられてちょっと戸惑った。
「それなら相談にのってあげるわ」
相談料として、分けてもらえるなら、その大きな胸を半分、分けて欲しい。
あ、勿論、追放されないようにかばってね。
安心させるような笑みの裏で考えていたことは自分のことばかりだけだったけど、ヒロインを助けるんだもん、いいよね。
私の差し出した手をつかむヒロインを見てそう思った。
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前世の知識を生かして家の発展に貢献した私の立場はそれなりにある。
逆ハーしてしまうヒロインのことを相談できる相手は忙しい父は無理で、あとは逆ハーに入っている次兄と三兄は無理ということになると、既に結婚している長兄しかいない。
母はというと、ヒロインのことを相談なんかしたら、学園でトマス王子を虜にしている女生徒のことを知っているから、何をしでかすかわからない。貴族の女性というのは、貴族の男性を誑かす平民をそれはそれは毛嫌いしているのだ。それが大っぴらにトマス王子と付き合って、娘が王妃になる可能性を潰しかねない平民娘となると、物理的排除だってしかねない。婚約解消もせずに婚約者以外の女にうつつを抜かしているトマス王子もトマス王子だけど。
「カイラです。お兄様。今、よろしくて?」
先に約束はしていたけど、長兄の書斎に入る前にノックと声はかける。
「ああ、カイラか。お入り」
入室の許可が出てから入る。
元々、長兄の為に小さな客室を改造して作った書斎なので、ベッドと入れ替わりに書き物机と椅子、それに本棚ぐらいしか持ち込まれていない。
この使い慣れた書斎があるので、長兄は結婚後もこの屋敷で暮らしている。
「ありがとうございます、お兄様」
「何だい、話というのは?」
妹が悪役令嬢、弟二人が攻略対象であるのが頷ける容貌をした長兄は穏やかに聞いてきた。
「実は折り入ってご相談があますの」
「相談か。また新しいことを思いついたのかい?」
長兄がこう言うのも、忙しい父に前世の知識を活かした提案を直接することはできないので、長兄にアイデアを言って、それを実現できる形にした上で長兄が伝えてくれるからだ。
だからといって、長兄は妹に甘いわけじゃない。次期アデルフェルト公爵として、私から有益な情報をできるだけ絞り上げて利用しようとしているだけだ。
「いいえ。お友達のことですわ」
「友達? リグリーデ伯爵令嬢のことか?」
妹の一番仲の良い令嬢の名前まで知っているのも、それが利用できる人脈だからだ。
「いいえ、シャロン様のことではございませんの」
「じゃあ、マルロー侯爵令嬢か?」
「アリーナ様のことでもありませんわ。リビーのことですの」
「リビー? もしかして、リビー・アレンのことか?」
「はい」
学園のことまでしっかり情報収集している長兄。情報源は私が学園に連れて行っている侍女や学園まで送っている馬丁だろう。
「すまないが、それは母上が既に対処している」
「お母様が? お兄様、お母様を止めてください。わたくしはお友達であるリビーを助けたいのです」
長兄に相談しに来て正解だった。まさか母が既に動いていたとは思わなかった。
ここは母がしたことのとばっちりで追放されないように、止めておくのが賢明だ。私の絶縁と追放は次兄と三兄だけの独断で決められるものじゃないから、長兄にこうしてヒロインを守ろうとしていたアピールをしておくのは必要だろう。私がヒロインをイジメていたと言われた時に長兄が口を挟んでくれれば、まだ学園に在学している次兄や三兄の意見がまかり通ることはない。トマス王子の判断だろうが、無実の証拠を用意して私とこの家を守ってくれるはずだ。
トマス王子はまだ王子だし、あやふやな証拠とも呼べないものだけで公爵令嬢である私を断罪することはできない。最後には父や長兄が私の処遇を決めるのだ。ゲームとは違って、次兄と三兄の意見より、今は家の発展に役立っている私の意見のほうが父や長兄の信頼を得ている。
「何故、お前の婚約者やキースたちに色目を使っている娘を助けようとする? 納得がいかなければ、こればかりは僕も力を貸せないぞ」
長兄への報告もヒロインに誑かされていることになっていたらしい。実際は攻略対象者が付きまとっている(なんだかヒロインのほうが攻略されているように見えるけど)のに。
「お兄様、リビーは好きで近寄っているわけじゃないの。キースお兄様たちが物珍しくて近寄ってしまって、困っていたわ」
「キースたちが?」
「ええ。リビーは平民の中でもマナーが本当にできない子だから、貴族との距離感すらわかっていない子なの」
「それはまた・・・なんというか、すごい子だね」
困惑した長兄は言葉を濁した。
私もそれに気付いた時はそういう気持ちになった。
「それでカイラはどうするつもりだい?」
「私は彼女を取り巻きに入れて、常識を教えるつもりよ。常識さえわかっていれば、物珍しさも薄れてキースお兄様たちも興味を失くすでしょうし」
「ああ、そうだね。お前の取り巻きに入れれば、キースたちも目立たないからいいんじゃないか。流石に妹や婚約者の目の前で情けない姿はさらさないだろうし」
その情けない姿は既に見ています、とは長兄には言い出せなかった。
「では、取り巻きに入って、リビーには頑張ってもらいますわ」
リビーを私の取り巻きにするだけじゃ駄目なので、リビーに我が家に遊びに来てもらって、マンツーマンでマナーのレッスンをすることになった。
本人の努力の結果、風当たりは多少マシになったとか。
でも、ゲームに登場しないからと安心できた長兄が我が家に遊びに来ていたリビーと顔をあわせた時、ジッとリビーを見る長兄に何となく嫌な予感はした。
それでも、まさかあんなことになるなんて、予測していなかった。
私がとんでもないことをしてしまったと気付いたのは、どうしようもできなくなった後だった。
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結論から言うと――
リビーは本人の希望通り、王子たちの前から退場し、私はトマス王子と予定通り結婚することができた。
が。
色々、問題があった。
いくら弟たちが攻略対象者だからと言って、まさか既婚者だった長兄がリビーを妻にと望み、離婚してしまうなんて誰が予想したことか・・・。
始めは長兄がリビーと再婚することに反対していた次兄と三兄は途中から手のひらを返して賛成してしまっただけでなく、彼らが結婚しないことを宣言してしまったこと。
次兄と三兄だけならともかく、ゲームの強制力が働いているはずのない長兄までどうしてこんなことに?!
嘆く私とは裏腹にゲームの強制力が切れたらしいトマス王子はリビーに付きまとっていたことが嘘のように以前の彼に戻った。
ついでに兄たちもゲームの強制力から解放されて欲しい、と願ってしまったのは仕方ない。
我が兄たちは実質多夫一婦になってしまったのだ。
そして恐ろしいことに国王となったトマス王子は自分や父王の時のように息子たちが王位を争うことを良しとせず、兄弟で妻を共有すれば一人の女性を巡る兄弟同士の争いも起きないと兄たちの前例を持ち出し、王子の母親同士の無用な争いが減ると法律を変えてしまった。
逆ハー乙女ゲーの悪影響がここにも!!
カイラ:ヒロインの胸を分けてもらいたい悪役令嬢。
トマス王子:友人たちがヒロインの傍にいるので、傍にいるだけ。貧乳好きの疑惑がある。
リビー:乙女ゲームのヒロイン。メロンのような胸の持ち主。本人はあまり無神経ではない。
キース他:カイラの兄たち。実はヒロインの胸が好みの3兄弟。
ちょっと追記:
トマス王子とお兄様たちとリビーでお茶会をした時のこと:
カイラ:「お兄様たちはリビーのどこに惹かれましたの?」
キース(カイラの次兄):「(カイラの兄たち、一緒にいるリビーの胸を見る)運命の相手に理由なんかないさ」
トマス王子:「そうだね。(カイラの胸を見る)私は胸がなくてもカイラが好きだよ」
カイラ:「ひどいですわ、トマス様! いくら、わたくしの胸が小さいからってそのようなことをおっしゃられなくても、いいじゃありませんか」(走り去るカイラ)
カイラの長兄:「これでは流石にカイラが可哀想です。トマス殿下はカイラを胸で判断していないのだから、せめて『胸があってもなくてもカイラだからかまわない』とおっしゃって下さい」
トマス王子・リビー:「・・・」
※このお茶会の後、トマス王子に貧乳好きの疑惑が持ちあがる。