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紀亞ちゃんへ

 よく見ると、天井には無数の小さな穴が開いており、その穴に色々なギミックが詰まっているようでござる。

椅子に座っている時も至る所に神経を研ぎ澄ませていなくてはならないとは、気が休まらないでござるな……。


「改めまして、こんにちわだぞ? 今日から一年イ組を担当することになった絶賛恋人募集中の二〇歳、紀亞(きあ)だぞ? 皆さんよろしくだぞ?」

 妙にテンションの高い弾けた担任の先生だ。ぶりっ子属性があるのか、頬に人差し指を当てて頭を傾げている。

 語尾だけに留まらず、態度まで……。

 突然の変化(へんか)にドン引きでござる。

 それにこの場には拙者を含めて男は四人しかいないでござるに、いったい誰へのアピールになったでござろうか?


 せっかくの挨拶がどうやら空振りに終わったことを悟った担任、改め紀亞先生。

「はい、拍手」

 ドスの利いた男の声で逆ギレしました。

 顔のひきつったくノ一がゆっくりと(まば)らに拍手をする。半数以上は恐怖から凍りついて動けない。

「今のは変声のお手本なんだぞ?」

 またアニメ声に戻ったでござる。

 もう初対面だから、どれが本当の先生なのかわからない。

 とにかくテンションを下げさせちゃいけないという事だけは理解できたでござる。

 急にクラス中が固唾を飲んで先生の話を聞く、じゃなかった、合わせる空気に変わった。みんな場の雰囲気に飲まれているでござるな……。


「主な授業は『忍法:変化(へんげ)の術』を教えているんだぞ? 受講する人は掲示板に用紙を貼っておくから、記入をするんだぞ?」

 変化の術の先生だから色々な人になれないとダメなのか?

 今はぶりっ子属性も消えて、拙者が教室に入った時の先生でござる。

 先生の話に必死に頷いている人が多いから、結果として挨拶は成功したと思うでござる。変化の術だけではなく、人の心を操る(すべ)を知っているでござるな……。

 馬鹿げた態度さえ見ていなければ、もっと信頼できるでござるが……。


「たまに要人の影武者として国務を代行してるから、突然の休講になったらごめんなんだぞ?」

 可愛らしく顔の前で手を合わせて謝った。

 要人の影武者……? 紀亞先生ってまさか――すごい先生ではござらんか?

 本当に二〇歳でござるか……? そもそも忍者学校の先生って二〇歳でなれるでござるか?

 忍び装束を着ているため、目元しか見えないでござる……。早くも年齢詐称疑惑が浮上したでござるな……。


「まず最初に進級条件は年に一〇個以上の技能テストをクリアする事なんだぞ?」

 なるほど、でござる。

 忍者学校を卒業した暁には、最低でも三〇個以上の技能を持つ忍びになっているでござるか……。

 履修可能な技能を見ると、必須技能という指定は特にないものの、体得難易度や、社会に出てから役に立つリストなどはある。

『軋む床を無音で歩く』という技能テストがあるでござる。

 難易度は超簡単らしい。鳴らない場所を念入りに調べ上げれば、得手不得手に関わらずクリアできるでござるからな……。

 他にも『鉤縄で五秒以内に二階に到達せよ』や、母上がやった壁走り、鍵開けなどがある。

 壁走りは難易度が高いでござる。そもそも壁を走られればどこへでも移動ができるでござるからな……。


「毎日学校に顔を出さなくても、受けたい授業のある日にだけ学校に来てもいいんだぞ?」

 一年で一〇個なら、確かに全授業を聞く必要はないでござる……。

 入学前からトレーニングしていれば二つ三つはすでに体得しているでござろう。

「余った時間は自主練をし放題なんだぞ?」

 忍法は向き不向きでできるまでに個人差がある。いちいち下に合わせないで、授業で全体説明だけして、実戦練習は放置って事でござろうか……?

 頑張った人とサボった人の差が明確に出るシビアなシステムでござるな……。


「卒業前に三〇個の技能に合格すれば、年の途中でも忍者の資格を取得するのも可能なんだぞ?」

 才能に恵まれていれば、三年間もダラダラいる必要がないのでござろう。外国の飛び級と同じでござるか……?

 それで紀亞先生は二〇歳でここに……?

「他の授業も掲示板の用紙に名前を書けば受けられるんだぞ?」

 受けたい時に受けたい授業を受ければいいから、時間の制約がなくなるでござるな。


「全校生徒が同じ体系だから上級生も同じ授業を聞きに来るんだぞ?」

 主たちと同じ授業を受けられるでござるか!

「だから、仲良くしないとしばかれるんだぞ?」

 紀亞先生は目元に手を当てて泣き真似を始めた。ポタポタと涙の滴。

 まさか、しばかれた事でもあるでござるか?

 出る杭は打たれるのでござろうか?

 よく見ると、手に隠し持った目薬の雨が降っていただけでござった。

 単に生徒同士仲良くしろよ。と言いたかっただけでござるな……。心配して損したでござる。

 拙者もいつの間にか話術に飲まれていたでござるか……。


「では、質問のある人だけ残って、あとは解散なんだぞ?」


 くノ一たちは椅子から無音で立ち上がり、それぞれの親のもとへ。

 その中には拙者を思いっきり睨む殺し屋くノ一の姿があった。同じクラスでござったか。

 あまりクラスって概念がなさそうな授業体系をしているから、関係ないでござろう。


 まだ席に座って、親子の団欒(だんらん)を眺めていると声がかかる。

「日影君のお母様はどうしたんだぞ?」

「もう帰ったでござる」

「それは残念なんだぞ? 紀亞は色紙まで用意したんだぞ?」

 この人も母上側の人間だ……。

 世代別一位の名は伊達(だて)じゃないでござる。

「サインが欲しいなら、あとで荷物を届けに来てくれる使用人に伝言を頼んでおくでござるよ」

 紀亞先生は目を見開いた。

 本性を隠し、他人になりすます名人。でも、きっとこの瞬間だけは素の紀亞先生なんだと実感できた。


「日影君はいい子なんだぞ? でも、技能テストはおまけしてあげられないんだぞ?」

 予定外の展開にどうしていいのかわからないようだ。オロオロしている。でも、これはもう演技な気がするでござる。

「大丈夫でござるよ」

 ワイロ(こんな事)で試験をパスして卒業できても母上はきっと喜ばないでござろう。

 釘を刺して安心した紀亞先生がサッと色紙を取り出すと机に置き、教壇へ戻っていく。

 早すぎてどこから色紙が出たのか見えなかったでござる。

 置かれた色紙を手に取り、まじまじとチェックする。折られた形跡も丸められていた形跡もないでござる……。

「あ、『紀亞ちゃんへ』って書いてもらうのを忘れちゃダメなんだぞ?」

 思い出したように注文が増えた。

 紀亞ちゃん?

「わ、わかった、でござる……」

 まさか、母上はこれを察知して先に帰ったのではござらんか?

 もうお腹いっぱい。担任を変えて欲しいでござる……。

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