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■ 後 編



 

 

 

 『・・・・・・・・。』

 

 

 

先程まで笑っていたハルキの顔が、瞬時に凍りついた。

 

 

 

  男??


  男・・・?


  男・・・・・・・。

 

 

  サクラ・・・、男って言ってたか・・・?


  いや、女とも言ってなかったけど。でも・・・

 

 

  なんか、あの感じだと、女の先輩だと思うだろー・・・


  普通、クッキー作ってきてくれたとかゆったら


  そりゃ女だと思うだろー・・・

 

 

  なんだ。


  なんなんだ。


  今日の飲み会だって、無理矢理飲ませたんじゃないのか?


  飲ませて酔わせて何するつもりだったんだっ?!


  ほんとに、ちゃんとタクシーで帰すつもりなんだろうなっ?!

 

 

  なんだ。


  どうするつもりだ。

 

 

  ウチのサクラを・・・


  俺のサクラを・・・!!!


  俺んだぞぉぉぉおおおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

その翌日の土曜。


カタギリ家の玄関ドアが乱暴にバタンと開閉する音が鳴ったと思ったら、

そこにはハルキが立っていた。

ハルキは朝イチの特急列車に飛び乗って地元に帰って来ていた。

 

 

 

 『え?・・・どうしたの?なんかあったの・・・??』

 

 

 

サクラにも、実家にも、なんの連絡もない急な帰省。

ハルキ母サトコが、キョトンとして驚きの声を上げる。

 

 

『アンタ。次、帰ってくんのお盆って・・・』 言い掛けたサトコに、

仏頂面で『急用。』 と一言ハルキは吐き捨てた。

 


 

  

 

ハルキが無表情で淡々と言う。

 

 

 『タクシー代もすぐ返さないといけないし、


  ちゃんと挨拶もしとかなきゃいけないから。』

 

 

 

どこか怒っているようなハルキに、サクラが苦い顔を向けた。

 

 

 

 『いいってばー!コドモじゃないんだから・・・


  タクシー代も来週ちゃんと返すから、ダイジョーブだって・・・』

 

 

 

言っても、聞かない。頑なに首を縦には振らないハルキ。

サクラには何がどうしてしまったのか、全く意味が分からなかった。

 

 

無理矢理サクラに案内させ、ヨシナガがいる大学校舎の一室へ向かったハルキ。


土曜だから大学にいるかどうか分からないというサクラの声にも

一切耳を貸さず、むんずとその方向へ足を進めた。


SB同好会で使っている一室前で足を止める。

案内だけさせるとサクラを無理矢理追い帰し、室内へ足を踏み入れた。

 

 

静かなそこには、微かにレザーローションのにおい。

ヨシナガがグローブの表面にそれを塗布し、革の手入れをしている最中だった。


急に知らない男が入って来て、驚くヨシナガ。

 

 

 

 『昨夜は、サクラが大変お世話になりました。』

 

 

 

そう言って頭を下げ、ハルキが自己紹介をした。

突然のその姿に驚き目を見張ったヨシナガも、慌てて自己紹介を返す。

まず、いの一番にタクシー代の精算を済ませた。

 

 

 

精算を終えても帰る気配がないハルキに、パイプイスを差出したヨシナガ。

 

 

 

 『もしかして・・・ 心配してわざわざいらしたんですか・・・?』

 

 

 

頬を緩めて笑う。

しかし、その表情にはバカにしている感じは微塵もなかった。

 

 

ヨシナガは続ける。

 

 

 

 『ミナモト、入学した当初からちょっと有名人だったんですよ・・・


  あんな、中学生みたいなナリして


  すごいちゃんとした婚約指輪してて。


  いくら訊いても、本人は指輪のこと絶対言わないし・・・』

 

 

 

思い出し笑いのように微笑んでいるヨシナガ。

 

 

 

 『でも、昨日の飲み会で。


  なんかやたらと機嫌良くて、珍しく飲んでて・・・


  そしたら、指輪見せびらかし始めて・・・


  ”ハルキがハルキが ”って、もう、クドいくらい・・・』

 

 

 

ハルキが困った顔を向け、照れ臭そうに俯いた。

 

 

 

 『なんか、


  意味が、よく分かんなかったんですけど・・・

 

 

  ”カレーが出来た ”?・・・だか


  ”やっとカレーのOK出た ”?・・・だかって


  しきりに繰り返してて。


  それで昨日はご機嫌で、


  普段ゼッタイ来ない飲み会にも参加したみたいで・・・』

 

 

 

頬を緩め、目線を落としているハルキに、ヨシナガが続けた。

 

 

 

 『あの・・・ ひとつ訊いてもいいですか・・・?』

 

 

ハルキが目線だけで頷く。

 

 

 

 『だいぶ付合い長い、みたいな事を。 


  ミナモト、昨日言ってたんですけど・・・』

 

 

 『あー・・・ アイツが生まれた時から一緒ですから・・・』

 

 

 

一瞬、ヨシナガが何か考える。

 

 

 

 『それって、”家族愛 ”ではないんですか・・・?』

 

 

 

その言葉には挑発するような嫌な感じはなく、純粋な疑問を問い掛けて

いるようだった。

 

 

 

 『それもありますよ、勿論。


  家族みたいで、兄妹みたいで、友達みたいで・・・


  でも、それ以上にひとりの人間として、アイツを大切に想ってますから。』

 

 

 

そのハルキの真っ直ぐな言葉に、ヨシナガがやわらかく微笑んだ。

目線を落として、止まっていた手元のグローブの保湿を、再開する。

 

 

 

 

 

 『ミナモトって、なんか・・・ 仔ライオンみたいですよね?』

 

 

 

ハルキがぷっと吹き出す。

うまい表現をするもんだと感心する。

 

 

 

 『仔犬でも仔猫でもなくて。


  でも、オトナのライオンでもない。


  なんか・・・ 仔ライオンですよね・・・』

 

 

 

ハルキとヨシナガ、ふたりして声を上げて笑った。

 

 

 

 『ミナモト、すごい勉強頑張ってますよ。


  なんか、”絶対センセーになるんだ!”って・・・

 

 

  それって。もしかして、


  カタギリさんの為。 ・・・とか、ですか?』

 

 

 

左手の甲を口許にあて、微笑むハルキ。

それは、言葉に出さずともヨシナガの問いへの答えになっていた。

 

 

 

 

 

 

帰り道。


ハルキはなんだか、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

たまたま通りかかった花屋。

思わず飛び込み、ガーベラの大きな花束を買いサクラの元へ駆けた。

 

 

すると、

サクラが照れ臭そうに見慣れないエプロン姿で玄関まで出てきて、

頬を緩めながらハルキを出迎える。


スパイシーな香辛料の香りが、玄関先まで漂っている。

 

 

花束を差し出すと、驚きパチパチと瞬きを繰り返しながら嬉しそうに

胸に抱えた。

それを受け取った手の指先には、慣れない包丁で切った傷を覆う絆創膏が。

 

 

 

 

思わず、抱きしめた。


大切に大切に、でも誰にも取られように、しっかりと。

 

 

愛しくて切なくて苦しくて、あたたかい・・・

 

 

 

 

 『サクラ・・・ 結婚しような・・・。』

 

 

 

 

ハルキが少し涙声で呟いた。

サクラが目を細めて頷き、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨシナガが呟いたツイートに、後輩から返信が。

 

 

 ”画像変えたんですかー?


  最近、小さいライオンの画像気に入ってたんじゃー? ”

 

 

目を伏せて、ヨシナガが返した。

 

 

 

 ”親ライオンには敵わないからね。 ”

 

 

 

ひとり小さく、笑った。

 

 

 

                             【おわり】

 

 



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