儀式
生まれ変わるための儀式だと誰かが言った。
***
長い行列に並んでいた。
後ろを振り向いても終わりが見えないくらい。
いつ並んだのだろうか。どれ位並んだのだろうか。先ほどまで一緒にいたはずの家族はどこにいるのか。何も分からないまま、順番が来るのをぼんやりとしながら待っている。
理解しているのは唯一つ、この行列の先に行かなければならない。そのことだけ。
まもなく順番が巡り、景色が一転する。
ほの暗い、石造りの部屋に入る。その中に石で囲まれた、体を清めるための小さなプールがあった。
前の人に続いて、ゆっくりと青灰色の石の階段を下りてゆく。裸足のつま先から、刺すような冷たさが這い上がる。
水は腰の少し上まであった。全身を覆う白い服は見る見るうちに濡れて、肌に張り付きなお一層青白く、まるで光を放っているようだった。
凍えたまま更に進み、周りを見渡す。目の前で無数の白い蝋燭が、橙色の炎を揺らして燃えていた。
見とれてしまうほど美しく炎に皆指を伸ばす。
見よう見まねで垂れる前の蝋を指先に取り、炎に触れる。ちりっとした痛み。人差し指の上で灯った、自分だけの光。
部屋を出ると、そこは何もない白一色の世界だった。
その白い空間の中に、ぽつんとホームが立っていて、指先に炎を灯したままの人々が何かをじっと待っている。
あとは列車に乗るだけね、と、隣に立っている制服を着た女の子が言って笑う。
手を伸ばして手を握って、もうすぐだよと励ますように声をかけてくる。
この人は誰だろう。
知っている人だろうか。知らない人なのだろうか。どちらにしても大差ない気がするのは、自分が冷たい人間だからだろうか。
ほら、来たよ。手を引かれ、列車の中に入る。新幹線と大して変わらない列車。その中から、そっと外を見る。
この先に、永遠があるのだという。
この先で、生まれ変わるのだという。
待ち望んで止まないもの。欲しがっても手に入れられそうにもないもの。満たされているはずなのになお望んでしまう何かを、その名前も知らないまま、この欲望の列車に乗る。永遠に続くというこの白い世界を突き進んで。
人々が、笑う。
なのに何故こんなにも不安なのか。
蝋が燃え尽きる前に、果して終着点に着けるのだろうか。
指先の炎が、ぼんやりと輪郭を滲ませながら弱々しく揺れている。