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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
専門学校、職場体験編
92/120

もし小さな町で都市型鉄道を運営したら

 改札口に通された僕は、改札窓口の脇にあるデスクのある椅子に座らされた。ここでは地下鉄指令室から発せられる声が聞こえる。


『ただいま9時30分。南北線11運用列車は1分遅れ、東西線20運用列車は1分30秒遅れですがどうしました~?』


 指令室からの放送は各駅や各列車に配信されるが、ここから僕は、鉄道会社の現実に直面する。


『こちら11列車運転士~。各駅駆け込み乗車により遅延拡大~』


『こちら20列車運転士です。同じく各駅駆け込み乗車の影響と、うろな駅で中学教師が生徒を乗せるため戸袋に寄り掛かり戸閉めを妨害。車内放送にて警告するも効果なし。監視カメラ確認次第、警察に通報願います』


『こちら指令。両件承知。ダイヤ回復に努めてください。20列車の妨害行為についてはですが、うろな駅係員さんどうぞ』


 指令員からの連絡に、大橋助役が専用受話器を取り応答。


「はいこちらうろな駅~。警察に通報の件、了解です」


 専用受話器を下ろすと、大橋助役は固定電話で警察に通報。約5分後に二名の警察官が到着し、大橋助役立ち会いのもと、監視カメラの解析が始まった。


「迷惑行為はしっかり是正しないとね。ただでさえ町内にしか線路のない会社で赤字続きなのに、日常的にダイヤが乱れたら潰れちゃうよ」


 傍らで様子を見ている僕に、警察官に挟まれた大橋助役が振り返って言った。


 元々時間ギリギリで組まれているダイヤは4時間経過しても回復できず、折り返し駅では車掌、運転士が200メートル先のとなる運転台まで駆け足で向かっていると、鯨は大橋から聞かされていた。


『各線担当乗務員、一部列車で遅延の拡大がみられますがどうしました?』


 そこに追い打ちを掛ける指令員。収入確保が極めて困難な小さな町で鉄道を運営するとなると、様々な面でシビアなアクションをしなければならなくなる。状態的なダイヤ乱れは時間に正確な日本の鉄道にあるまじき事態。しかし余裕のあるダイヤを組むと運行速度が落ちて競合路線に客を取られるリスクが高まるほか、線路上を走行する列車編成の増加に伴う乗務員の増員による人件費の増加、他に電気代や車両、線路等のメンテナンスコストも増加する。そのため少ない車両をフル活用し、少しでもコストを抑えなければ会社が倒産してしまうのだ。


『ああああああ!!』


 指令員と乗務員のやり取りが聞こえるスピーカーから、突如発せられた男性のものと思しき悲鳴。鯨は思わず「えっ!?」と耳を疑った。


「あぁ、始まっちゃったか。こりゃ今日も昼メシ抜きかな」


 駅社員が目の前で忙しくしている中、ただ傍観しかできない鯨は己の無力さと同時に業界への絶望感が湧き始めていた。無言のまま立ち尽くし、からだが邪気を吸い寄せ、重くなる。この感覚を言葉にできるほど鯨の心に余裕はなく、まるで自分はこの場に存在していない気分になってきた。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 更新が遅くなりまして恐縮です。


 うろな地下鉄は人口約三万人の小さな町で運営している地下鉄で、極端に危険な例ですが、もし本当に作中のような経営をしている会社があるとしたらかなり大きな問題です。しっかり本社へ声を届けたほうが良いでしょう。

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