よくわからない車両学習
汐入さんとは、そろそろお別れになっちゃうのかぁ。研修終わったら、支社勤務の人とはなかなか会えなくなっちゃうなぁ。
新入社員研修は終盤に差し掛かり、基礎となる体力づくりや道徳教育のほかに、実務教育のカリキュラムが入ってきて、いよいよ戦力デビューが現実味を帯びてきた。
きのうの大雨が嘘のように晴れ渡り、白い雲がポツリと点在する程度だ。
いま、私たちは車両の製造とメンテナンスをする工場、『うろな車両ファクトリー』に来ていている。午前中はここで車両を解体して部品や車体など、ひとつひとつを検査して、再び組み上げる過程を見学する。
これ、理解できないと運転士になれないよね。
「おはようございます。皆さんのなかにもこの工場に配属される方がいらっしゃると思いますが、他職場に配属される方も、よく見学していってください」
会議室で作業着とヘルメット、保護メガネを装備した中年小太りのオジサン現場長が挨拶をすると、私たちも「よろしくお願いします!」と元気に挨拶をして、現場長と同じ格好になり、工場内に移動する。
電車の工場は小学生の頃、社会科見学で訪問していて、車体をクレーンで抱き上げ、『台車』と呼ばれる足回りを切り離し、更に座席やドアなどを取り払ったり、台車の部品を取り外して見るも無惨な姿になるのは知っている。鯨が言うには車輪を車軸に嵌め込むとき、嵌め合い部に塗られた白い液体が隙間から噴き出すとか。ニヒヒヒヒ……。
下品なことを考えている私の横で、都と灯里は黙って部品の絵を描き、それについてメモを取っている。
えーと、台車の左右の端にに丸いゴムの空気バネを置いて、あちこちを針金で縛って、自転車の前輪にある車輪を押さえるヤツみたいなの、『制輪子』って言ったっけ? あとそれを固定する湾曲したT字型の棒、『制御子キー』の中心をハンマーで叩いてから差し込み部に挿入して……。
ヤバイ、よくわかんない。
私も真似をしてメモを取ろうとするけど、上手く絵を描けない。社会科見学のときも思ったけど、操業中の工場内はインパクトレンチや研削機械の音がギュインギュイン鳴り響き、耳が痛くなったり気分が苛立ってきて集中しにくい。
車両を解体してから組み上げる過程を一通り見学した後、会議室に戻った。今度は机上で車両の設計図や回路図を閲覧し、車両の構造を勉強する。
なにこのごちゃごちゃして複雑過ぎるモノクロの図。でも、古い電気機関車、抵抗制御の電車、VVVFインバータ制御の電車と、複雑なタイプの車両から順に眺めていったら、新しい電車は構造が比較的簡素になっているのは理解できた。『VVVF』は、『ヴァリアブル・ヴォルテージ・ヴァリアブル・フリークエンシー』、日本語で『可変電圧可変周波数』の略。
ふむふむなるほど、私、機関車は運転したくない!
うろな支社管内の運転士職場は、本線とうろな北線を担当する『うろな高原運輸区』と、うろな南線と海浜森林線を担当する『海浜公園運輸区』の二つがあり、後者は一般型電車のみの乗務になるから、運転士になった暁の配属はこちらが望ましい。
さて、午後は研修センターに移動して運転シミュレータでの研修だ。ここで頑張らなきゃ、この先が凄く心配だ。
お読みいただき誠にありがとうございます!
運転台の体験は鉄道会社の醍醐味のひとつでしょうか。私が見学したどの会社でもシミュレータまたは実車両の運転台に乗せてもらいました。研修の様子を描くならここは外せない要素です。