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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
咲月と鯨の恋愛編

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ノーリスク、答えによりハイリターン

 片瀬さんは、僕をからかっているのだろうか。暗がりのなかでも目を潤ませ俯いているのは判る。けれどそれはいわゆる女の武器というものかもしれない。ここで真面目に返事をしても、いつもみたいに、さっきみたいに笑われて背中をバシッと叩かれるオチだろうか。


 でもこの場で、将来についての真面目な話をしたところでそんなおふざけがあるだろうか。いや、場の空気を明るくするために冗談で告白というのはこの人なら有るかもしれない。


 困った。非常に困った。僕の胸の高鳴りは確かで、いま片瀬さんに抱き付かれたら何をするかわからない。普段は大人しい男子生徒、同じ部活動に所属する女子生徒に猥褻わいせつ行為なんてニュースになってしまいそうだ。


 !?


 突如、ベッドに着いた僕の左手に少し冷たくてやわらかい感触があった。考える間もなく片瀬さんの手が被さったと解った。


 そのとき、僕は悟った。僕は自分が傷付くのを恐れて、片瀬さんの気持ちとの向き合いを躊躇ためらっていたと。今までずっと僕の奥深くを見てきて、可能性を引き出そうとしてくれた片瀬さんの気持ちを、防衛本能で踏みにじろうとした愚かさを。


「私、本気だよ? もし私が後で茶化したら、殴るなり蹴るなりしていいから、鯨の気持ちを聞かせてほしい」


 そしてそれを、片瀬さんは見透かしていた。


 最適解は容易に導き出せた。だけどアクションを実行できなくて、暫し黙り込む。


「返事は急がなくていいよ。でも確実に聞かせてほしい。どんな答えでも鯨に悪いようにはしないし、私にとってもマイナスはないから、安心して本音をぶつけてね」


 ノーリスク、答えによりハイリターン。僕の懸念をとことん払拭ふっしょくする片瀬さん。なんという人心掌握術だろう。そして僕は、どこまで甘ったれているのだろう。こんな自分、もう卒業しなきゃ。


「はい、えと、好きです。僕で良ければ、よろしくお願いします」


 言った。言ってしまった。凄くあっさり、言ってしまった……。


「本当に?」


「はい」


 僕のぎこちない態度に片瀬さんは疑っているのだろうか。疑われたって、告白されたのなんて初めてだし、開き直るのもどうかと思うけど、僕は人見知りの小心者で鉄道オタク。女性に好かれるなんて到底信じられないのに、告白されて素直に喜べるほど楽天的にはなれないのだ。


「はははっ! マジで信じた!? いやあやっぱり鯨は可愛いなあ! でも鯨、私のこと好きなんだあ!」


「はい!?」


 あぁ、そうですかそうですよね。僕の人生なんてこんなもんです。騙されて騙され続けて一生過ごすんだ。僕みたいなオタクは人を騙したりバカにしない鉄道に腐心しているほうが性に合ってるんだ。それがいま、証明された。そうだ、これはきっと、僕が鉄道員になれるようにもっと努力しろという天の思し召しなんだ。


「はへっ!?」


 これは、どういうことだ? 鉄道員になるために気合いを入れ直そうと気持ちを整えようとしたそのとき、頬にくすぐったくてふわっと柔らかい、温かな感触があった。


「なんてね。ありがとう、信じてくれて。大好き」


「えっ!? はい!?」


「私もね、好きなひとに初めて好きって言われて、どうしたらいいかわかんなくなって、とりあえず笑ってみた。それでも嬉しいのが抑えられなくて、思わずチューしちゃった♪」


「ははは……」


「騙されたと思わせちゃったね。ごめんなさい。改めて、よろしくね、鯨」


「あ、はい! こちらこそよろしくお願いします。えと、咲月さん?」


「うん! たくさん思い出つくろうね!」


「はい」


 こうして僕らの交際は、告白された当日から始まった。今まで他人に対する嫌悪感が強かった僕に、とても大切な人ができた、人生の大きな転機を迎えた夜でもあった。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 更新まで間が空いてしまい恐縮でございます。この間、別作品の執筆と並行しておりました。


 夜、二人きりの部屋でくっついた咲月と鯨。この後、むちゃくちゃ何かしたんでしょうかね。うーん、ご想像にお任せいたします(^^;

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