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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
咲月と鯨の恋愛編
58/120

過酷な練習メニュー

 7月に入り、鯨をはじめとした新入生10人が入部してから3ヶ月が経過しようとしていた。私は大辻くんや行谷さんと同郷で、学校は海に面しており潮風が身体をベタつかせる。そんな過酷な環境下でも部はお構い無しに活動する。


 短距離走でも長距離走でも鯨は他の部員より遥かに遅れをとっていたが、それでも必死に走っていた。出来るだけ鯨とコミュニケーションをとりたいと思う私だけど、私には私の練習メニューが用意されていて、いつも一緒には居られなかった。みんなから遅れをとっていてもたった一人で身体をふらつかせながら懸命に走る彼を見て、どうしてこんなに頑張れるのだろうかと、率直な疑問が湧いた。負けず嫌いなのか、自分が他より劣っているなら人一倍頑張らなければという真摯さなのか、胸の内が気になっていた。


 鯨は大人しい性格で、話し掛けても返ってくるのはイエスノーの類たった一言が殆ど。謎めく彼をからかったり見下す部員は多く、表面には出さないけどきっと心苦しい毎日を送っているのだと思った私はせめて私が心の拠り所になれればと、常日頃から話し掛けていたけれど、なかなか心を開いてくれない。きっとまだ、他人というくくりの中でしかない私を信用できなかったのだろう。そんな状況で胸の内を聞き出すなど到底不可能で、無理矢理吐かせたら心に土足で踏み込むことになる。なので私は適度な距離を置いているつもりだったのだけど、周囲からは構い過ぎとか、よく仲良しだよねーとか、よっ、姉御! 相変わらず後輩ちゃんを放っておけない性格だね! などと言われていた。やたらと後輩に構うのは中学時代からの性分だ。 


 ある日の放課後、この日の練習メニューは全員同じで、海辺のサイクリングロードを8キロメートル先の江ノ島えのしままで、往復16キロメートルの長距離走だった。授業の後、しかも30℃を超える真夏にこれだけ走るのは、中学時代から陸上を続けてきた私にとっても辛い。今夏初のこのメニュー、私は鯨が倒れてしまわないかとても心配だった。


 学校を出て国道を跨ぐ歩道橋を渡り、海辺のサイクリングロードに移動した。通行人が居ないタイミングを狙い横一列でスタート位置に並ぶ。


 南風が強く、スタート前から全身に塩や砂が纏わり付く。その量は砂防林の向こうにある学校より遥かに多く、一際不快だ。こんな日を喜ぶのはサーファーくらいだろうか。


 セミの声と波の音、はしゃぐ子供の声が入り交じるなか、孤独な闘いは始まった。

 ご覧いただき誠にありがとうございます!


 うろな町の鉄道員に生粋のうろな町民が少ないのは社内事情です。実はうろな駅の社員で、自宅最寄駅がうろな駅の社員は一人も居りません。

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