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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
駅係員たちの日常編

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懇親会

 18時頃、ブラインドの向こうはもう暗い。発表会は無事に終了し、続いて懇親会が開かれる。社員一同でテーブルを会議室中央に寄せると、揚げ物をメインとしたケータリング料理が次々と運ばれてくる。


「さあさあさあ! 皆さんの素晴らしい発表が終わったところでパァッと一杯いきたいなと思って一席設けさせていただきました! 当然会費は要りません! ただね、内部留保のほんの少しでさえも出し渋った財務部長をあの手この手で説得するのに費やした労を皆さんの楽しんでる顔で労ってくれればいいんです! それじゃ皆さん! タダ酒を呑む準備はいいですかあ!!」


 おおっ! と社員一同の歓声が上がり、安全部長の大社おおこそが合図をすると、ビールの入った小さなグラスを天井に掲げて威勢よく乾杯をした。


 会場は発表会とは一転してガヤガヤ騒がしく、談笑する者や料理を貪り食う者、ビールにワインにとにかく酒を流し込む者など様々だ。


 成夢は単独でビールをチビチビ飲みながら唐揚げを摘まんでいると、背後からトントンと右肩を優しく掴むように叩かれ、振り返ると華奢な人差し指が頬を突いた。なんて古風なイタズラだろう。


「ねぇ、久しぶりにおしゃべりしない?」


 成夢は肩に触れたときの感触で理解していた。一流の一連の動作は高校時代から変わりないようだ。


「うん。一流ちゃんは元気してた?」


「えぇ。海外生活はお米を食べられなくて物足りなさがあったけれど、新たな仲間ができて、帰国して就職したら2年後に恋人と再会するなんてとてもステキなサプライズだわ」


 抑揚を上げで嬉しそうに語る一流ちゃん。7年過ぎても昨日のように青春の日々を思い出す。


「ははは、そりゃ照れるわ。でも一流ちゃんみたいなエリートが赤点メーカーの俺と同じ企業に就職するなんて、世の中皮肉なもんだな」


「あら、そんなことないわ。成夢が努力した結果だもの。私だって努力して入社したのだから、成夢の努力は計り知れないわ」


「そりゃもう。就活のときは学科試験パスするので必死だったから」


 就活時、大企業または医者や弁護士など名声高いに職に就かないと一家の恥と親族に揶揄されていた俺は、まず大手自動車メーカー三社にエントリーシートを送り、うち二社の書類選考を通過。しかしその後の学科試験でいずれも撃沈。続いて大手鉄道会社一社にエントリーシートを送るも学科試験にすら進めなかった。ならいっそ地域密着で働こうと地方銀を狙うも見事書類落ち。


 こうして失敗を繰り返すうちに俺は気付いた。どの企業に対しても何等かのカタチで社会に貢献したいという思いを込めたが、それは本当に自分のやりたい事とは一致せず、不完全で具体性に欠けていたのと、経営方針とは異なる方向にあった場合もあった。


 そこで一度就活をストップし、3日ほど東北地方で緑に囲まれ気分をリフレッシュ。帰宅してからはPCでの企業調査を再開。OB訪問などはせず、とにかく経営方針が自分の哲学に近いものであるかにこだわった。


 そして、数ある企業の中で経営方針が俺の哲学ややりたい事に最もフィットしたのがこの日本総合鉄道という会社。かつては世間からお役所と揶揄され一度経営破綻。それから通常ならば利益を上げるためにがむしゃらになるか、または旧態依然で反省せずにグダクダするのがこの手の企業の特徴であるが、この会社の場合は利益を追求しつつも社員一人ひとりに目を配り、挑戦意欲のある社員をじっくり育てようという意気込みを感じたのだ。


 入社したら実際のところまだまだ発展途上でホームページに記載されている指針と程遠い部分もあるけれど、それは高い志を持った駅の仲間や一流ちゃんたち支社の人々、まだ見ぬ人々と一緒に実現してゆきたいと強く思っている。


 高い志といえば、一流ちゃんはとにかく理想が高い。高校時代にアルバイトしていたスーパーでは売れ残り発生を非常に嫌っていた。特に食品は売れ残っても無駄にしまいと、売れ残り食品の有効活用について研究し、肥料にしたりこっそり持ち帰って野良猫に与えたりしていた。なぜそこまでするのかと問うと彼女はたった一言、食されるために絶たれた尊い命を無駄にするなんて、酷く心苦しいじゃない、と。一流ちゃんの理想はきっと、他を思いやる気持ちから来るものだ。グラマラスな体躯も魅力的だが、俺は海のように広く深く心優しい彼女に、心底惚れたのだ。

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