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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
駅係員たちの日常編
50/120

そんな性格だから

 午前の会議および発表が終わり、食堂で食事を摂った成夢は机に戻り、美鈴が作成したパワーポイントの資料をプリントアウトしたものを黙々と読み込んでいた。なんと美鈴の無茶振りで急遽壇上に立ちプレゼンをすることになったのだ。


 なんだこのグラフみたいなの? あ、もしかして無線の周波数を表したものか? 意味わかんねぇんだけど。ってかまだ高校卒業したばっかのピチピチ腐女子がこんなん作成するってどんだけ天才なんだよ。いや、俺がバカなだけか。高校時代は赤点製造機だったし。グラフならエクセル使えれば作れそうだ。俺はエクセル上手く使えないけど。


 こんな調子で心配なプレゼンであるが、必要に応じてアドリブを使えばなんとかなるだろうとあまり身構えないようにする成夢であった。


 午前は支社管内のサービス向上と災害対策が主な議題で、うろな駅については改札口を現在の1階から3階に移動し、1階の空いたスペースを南北自由通路とするほか、建設中の駅ビルには書店やカフェなど定番店舗のほか、最上階にはフリースペースを設けてイベントの実施や、災害時には避難場所として活用できるようにする予定である。


 災害対策としては引き続き線路の高架化を推進し津波に備えるほか、気象観測システムの活用により強風や大雨による被害をいち早く予測し、運転見合わせや旅客りょかくや公衆の避難場所手配を前以て万端にする取り組みを進める方針を固め、プロジェクトは着々と進行している旨の発表があった。これについては長年実施している幼稚園や保育園、小中学校へ社員が出向く『鉄道安全講座』等を通じて営業エリア内にきめ細かく周知する予定である。


 営業部門では電車内のモニターにて町内のニュースやイベントの宣伝活動を積極的に行う提案や、消費税引き上げに伴うICカード利用者を対象とした運賃割引制度の導入、社員による創意工夫活動の活発化により、社員一人ひとりが持つ才能の開花と多種多様な事業展開を推進する取り組みについての告知があった。


「どう? 噛み砕けた?」


 チカチカして資料から目を離すと、背後からさらさらとした甘い香りの髪が俺の右首筋をくすぐった。高校時代によく嗅いだ懐かしい香りだ。


「内容は噛み砕けたんだけど、壇上に立つのは緊張する」


「ふふっ、昔は大勢のお客さまに向かってバナナの叩き売りをしたり、今はホームに立って案内のアナウンスをする駅員さんの言葉とは思えないわ」


「ああいうのは半ば独り言みたいな感じだけど、プレゼンは全員が俺に注目するわけじゃん? しかも阿弥陀如来みたいな険しい顔したおかみだって結構いるし。俺がナイーブなのは一流ちゃんがよく知ってるでしょ?」


 そう、俺は今の自分が信じられない。かつては女性に対してセクハラ発言するなんて考えられなかったし、人と接するのが苦手で、会話するとすぐに詰まったり、自分に対して何か不都合なことを言われても上手く言い返せなかった。いや、人と接するのは苦手だ。幼少期から話し合わせが苦手で、学校ではクラスメイトの話題が主に誰かの悪口だったり、イデオロギーやヒエラルキーに囚われた低俗なものが殆どで、それに愛想を振り撒いて同調するのが億劫で仕方なかった。


 そんな俺にとって、一流ちゃんの存在は大きかった。俺の考え方や価値観を理解してくれて、行き過ぎた思想はしっかり正してくれた。高校生の俺は一流ちゃんの言うことが合理的かつ良識的で良い結果を出す確立が高いと頭では理解していながらも、破滅型だった俺はなかなか受け入れられなくて彼女を悩ませたこともしばしばあったが……。


 一流ちゃんが卒業して海外留学を始めてから、俺が国内の三流大学を卒業するまでの6年間は再び憂鬱な日々が続いた。だが社会人になってうろな駅に配属され、俺の周囲からこの手のつまらない人間はめっきり減った。だから思い切って地元を飛び出し就職したのは今のところ成功といえるだろう。


「そうね。でも学門以外であれば本番に強いのは貴方の長所でしょ?」


「ははっ、正直ちょっと自信はある。でも終わるまでは油断できない」


「それは私も同じよ。そんな性格だから私たちは今、この業界で働いているんじゃない?」


「かもね。過剰なくらい念入りな日本の鉄道システムってそういう人が創り上げてきた部分が多そう」


「それでも絶対の安全が築けないのは皮肉だけれど」


「まぁね。だからこそ俺らとか、この資料を作った美鈴ちゃんとか、エレナさんとか、とにかく社員一同の真摯さが必要とされてるわけで……」


「えぇ。私と成夢くんたちはフィールドが違うけれど、お互い力を合わせていきましょうね」


「うん。さて、皆さんいつの間にか席に戻って来たし、休み時間終了かな」


「そうね。ではまた後で」


 ひらひらと手を振り前方の席へ戻る一流ちゃんの背に、俺も手を振り返した。

 ご覧いただき誠にありがとうございます!


 トラブル後の対策がメインの章にも拘わらず今回は学サイドから逸れたお話となりましたが、仮に本に綴じ込んだとしたらこの文字数のドラマは問題ないと信じたいですw

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