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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
駅係員たちの日常編
48/120

不可解な訃報

 21時10分、無線が復旧して運転を再開した総合鉄道会社うろな支社管内各線であるが、自社線列車の一部運休と水が噴出して運行不能となった地下鉄からの振替客の影響で朝の通勤ラッシュ並みに混雑していた。


「まもなく4番線から普通列車の湯海行きが発車いたします。この電車の後、新うろな行き、湯海行きの順に二本続けて到着いたしますので、無理をなさらず後の電車のご利用もご検討ください」


 うちの無線と地下鉄のトンネル壁が同時にダメになるとは。うちは朝のラッシュ並みで済んでるけどバス会社は大変だ。うろな町のバスは一路線あたり一時間に一本あるかどうかわかんないからな。それに地下鉄の利用者が流れ込むわけだから、乗り場は相当な行列だろう。


「なるむー、遅くなってごめん。交代の時間だよ」


 湯海行きが発車すると、背後から心南海さんが虚ろな面持ちで声を掛けてきた。いつも元気な心南海さんだが、今日はどうしたのだろうか。


「どうしました?」


「戻ればすぐわかる」


 事務室に戻ると、テレビ前のソファーで項垂れる芹沢さんと、彼を宥めるエレナさんの姿があった。


 俺は何か良からぬことがあったと直感しつつも何も言えずに立ち止まり、気まずくなってテレビに目を遣った。いま流れている内容は政治関連のニュースだ。


「成夢くん、ケイドロ大会とか水着コンに出てたサツキちゃんって覚えてる?」


 エレナさんに見上げられ、俺は件の女子高生を思い出す。


「はい。明るくて元気な子ですよね?」


「うん」


 え? 何? その先は? まさか芹沢さん、その子に貢いでたとか? にゃー! とか言う子だから二次元に生きる芹沢さんを射止められなくもないんだろうけど。


「でね、その子がね…」


 芹沢さんの過激な行為に耐えかねて訴えた? そりゃ仕方ないよな。嫌がる相手に手出ししたらまずいさ。芹沢さん、今までありがとうございます。






「亡くなったの」






 は?


「17時50分頃だから、ちょうど無線が不具合起こした頃に中央公園で焼死体で見付かったってニュースで言ってた」


 うん、頭では理解した。理解したんだけど俺、若い人の急逝ってなかなか受け入れられないんだよね。だからまだ哀悼の意は湧かない。


「焼け死ぬだなんて、きっと何か思い詰めることがあったんだ。辛いことが沢山あるのに、無理して笑顔で振る舞って、とうとう耐え切れなくなったんだ。ボクもそうやって地元のスーパーを辞めて、この会社に逃げて来たからね」


 俯いたままブツブツ語る芹沢さん。怒られようが文句を言われようが表面上はへこたれない人だが、流石に今回はそう行かなかった。


 サツキちゃんが自殺したとは限らないが、言葉が見付からない。


「ニュースでは火遊びによる事故死みたいなこと言ってたけど、屋外で火遊びして焼死するなんて絶対おかしいよね」


 エレナさんが的を射た推論を述べた。


「確かに。何か裏があるのは間違いないでしょう」


「やっぱり自殺なんだ。そうとしか考えられん」


 芹沢さんの見解に対して、俺とエレナさんは黙り込んでしまった。結局それ以外考えられないからだ。


 それから一週間と二日経過した10月20日、日曜日。俺たち三人は天へといざなうかのような陽光の下、サツキちゃんの葬儀に参列した。


 一方、支社や本社ではほぼ同時刻に起きた自社の無線トラブルや地下鉄の噴水事故とサツキちゃんの死は何等かの関連性があるのではと睨み、自社グループの研究所や外部機関の協力を得て対策を打つ運びとなった。

 ご覧いただき誠にありがとうございます!


 鍋島サツキさんのお名前をお借りいたしました。


 今回の件を受け、うろな駅および支社では何等かの対応を検討いたします。

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