その時、指令室では
17時45分、町内某所にある『うろな総合指令室』。テロの標的と成り得るため、指令室の所在地は外部に明かしてはならない決まりとなっている。
「止めろ止めろ止めろおおお!! とにかく全部止めろおおお!!」
「全列車直ちに停車してください!! 全列車直ちに停車してください!!」
指令室に響く、髭は剃ってあるが宇宙戦艦に居そうな貫禄たっぷり指令室長の怒鳴り声と、マイク通じて全列車に向け叫ぶ若手指令員。それもその筈。指令室では列車の所在が頭上の大きな画面に表示される記号から確認できるようになっているが、うろな駅周辺を走行中の列車5本が突如画面から姿を消したのだ。指令により画面から消滅した列車、していない列車全てが停止したと思われるが、消滅した列車については把握不能である。
「どうした故障か!?」
「わかんねぇ! でも特定のエリアで消えるってなんだべ!?」
「それこそわかんねぇよ! こんなに消えるの今まで経験ねぇもん」
大声で会話をしながら走り回る40代の中堅指令員二人。彼らを含め、衝突等の事故を引き起こしかねない異例の事態に50名ほどの指令員一同はドタバタと室内設備の点検や内外の情報収集に取り掛かっている。
「あ、出ました! 全列車出ました!」
約5分後、記号が表示され若手指令員が全列車の所在を確認。年のため記号の座標と列車の実際の所在地が合っているか、手分けして運転士と連絡を取る。
「よし、消滅した全列車は次駅で運転打ち切り。こちらで所属の電車区へ回送手配をする。第90N列車はヤシ折り返し、ウコ区まで回送。なお、回送する際は全列車にて徐行運転とする」
つまり室長は、『次の駅で旅客を全員降ろせ。降ろした後は所属の電車区へ回送。うろな北線のうろな温泉行きはポイントを切り換える装置のあるうろな山下駅で折り返し、所属するうろな高原電車区へ回送。回送するときは全列車で時速15キロメートル以下の徐行運転を実施する』という旨の指示を出したのだ。
無線が復帰したとはいえ、故障の疑いがある『車両』を営業運転するわけにはいかない。営業できる状態となって初めて『列車』と呼べるのである。なお、日本の鉄道では法令上、時速20キロメートルを徐行運転としているが、この会社ではそれより厳格な基準が定められている。
若手指令員は室長の指示により『通告伝達システム』を用いて指令内容を対象車両の運転台に搭載されたモニターへ送信し、運転士からの『受領確認』を確認した。
これにより、うろな支社管内では多くの列車に20分以上の遅れや運休が発生した。
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以下、専門的なお話です。
うろな駅には各線に転てつ器がございますが、構内で停車したうろな北線第90N列車はそれ及び過走余裕距離を超えているため今回のような運転内容といたしました。私は指令員ではございませんので、もっと安全で良い案がございましたらご提案いただければと存じます。