成夢の休日
火曜日。昨日と今日が非番である成夢のやることは、二日間とも変わらない。
「マジか! あの巨人って!!」
朝10時、成夢はひとりぼっちの部屋で録画しておいたアニメを見ながら発狂していた。一昨日の昼から昨夜までに16本見て、残りは現在視聴中の人間の要塞に巨人が責めてくる大迫力のアニメを含めて4本。録画しておいたアニメをまとめて見るのが成夢の休日の過ごし方だ。
さて昼だ。とりあえずウキウキウォッチングしながらランチとしよう。今日のメニューは旭川しょうゆ風味のカップ麺。昨日は札幌みそ、一昨日は函館しお。もちろんいずれもカップ麺。
「あ~、彼女の手料理食いてぇなぁ。あ、俺彼女居なかった! てへぺろ!」
ひとりぼっちの部屋。テレビのガヤをBGMにしてこだまする23歳会社員のオチャメ。成夢はあまりの空しさと一握りの羞恥心を排出すべく大きな溜め息をついた。とはいえ、3分後に出来上がったラーメンにはご満悦。今日もメシがウマイ!
15時過ぎ。やることがなくなった成夢は、電車が行ったばかりのやたら眩しい光が射し込む海浜公園駅のベンチに座って缶コーヒーを飲みながら次の電車を待っていた。うろな町市街のアニメショップにでも行こうかと、ぼんやりした頭でぐったりしながらおもむろに家を出たのだ。
ちょうど缶コーヒーを飲み終えたところで次の電車滑り込んできた。この時間帯の運転間隔は約10分。階段に近い中ほどの車両は立席客が多く混雑しているが、最後部の10号車は端の席は埋まっているものの、殆ど空席。
この電車は鋼鉄車両より約5年若い車齢25年ほどのステンレス車両。銀色の車体上部に青い帯、窓の下に細いクリーム色と青のツートンカラーの帯を纏っている。この車両は重たい鋼鉄車両と比べて消費電力を7割弱に抑えているが、全ての座席が窓を背にする『ロングシート』と呼ばれる近距離通勤電車に多いタイプの配置であるため、長いもので始発駅から終着駅まで100キロメートル以上を2時間以上かけて走る中距離電車のうろな線には不向きである。おまけにシートにはバネが内蔵されておらず、座るとお尻が沈み、からだに負担がかかりやすい。車体をステンレスにして塗装する手間を省くことでメンテナンスの簡素化を図り、ボックス席をなくして床面積を広くして混雑緩和を図った車両であるが、合理性に傾注し過ぎた結果、客からの不評を招いてしまった。
成夢は中ほどの席に腰を下ろし、成人男子にはシートピッチが狭いなと感じつつ、海を背にして揺られること約8分、うろな駅に到着した。
他の社員に見つからないよう駅を出て徒歩約5分。大型アニメショップに到着。この店にはアニメ関連のAVやお菓子にレトルト食品、コミックや雑誌といったバラエティーに富んだ商品を揃えている。
さてさてなんの新刊出てるかな~♪ あっ、この画集イイ感じ♪
「大辻さん?」
画集を手に取った成夢に、誰かが不意に声をかけた。
「おやおや六会さん、今日は非番なの?」
彼女は成夢と同期入社で同じくうろな駅の係員、六会美鈴。高卒入社の18歳。あどけないツインテールに赤い縁のメガネは、彼女の持つ買い物かごに入った裸の男が抱き合っている表紙の文庫本にあまりにも似合っていると成夢は偏見していた。
「明けですよー。それより大辻さん、それは? それはー!? デュフフフ…」
成夢が抱えている一冊の本を見て軽く興奮する美鈴の声は周囲の視線を集めてしまった。
美鈴の言う『明け』とは、8時30分から翌日同時刻までの徹夜勤務から解放された後を指す。
「あぁ、見ての通り、美少女たちの画集さ! 今夜はこれで、ムフフフフ…」
「デュフフフ…。お互いアツいよるになりそうですね!」
「ムフフフフ…」
「デュフフフ…」
気味の悪い笑みを合唱する二人の周囲から、周囲の客は自然と距離を取りはじめていた。
これが飢えた若者の哀しき性、なのかもしれない。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
明日は成夢とエレナが徹夜勤務を担当いたします。うろな駅をご利用の皆さまにおかれましてはご承知のほど宜しくお願い申し上げます。