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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
駅係員たちの日常編
34/120

Let’s sing a song!

 衣装を着替えて再び円陣を組み気合いを入れた四人は、さきほどより少し凛とした空気を纏って登壇した。


 ギター&ヴォーカルのエレナは履きなれない黒いパンプス、フリルのミニスカートとタイツ。上は第二ボタンまで開いた白いワイシャツに黒いネクタイとジャケットを纏い、成夢や男性の観客を刺激する。


 そんなエレナはステージに立つ感覚を高校時代以来7年ぶりに噛み締めていた。


「皆さーん! 今日は暑い中お集まりいただき本当にありがとうございます! 今日のステージが、この夏をもっと熱くできたらなんて思いで、私たちHarmony to Heartは駅社員、うろな支社一同の協力のもと、ハートを温めてまいりました! 今日は最高の時間を皆さんと共有したいと思いますので、ぜひ最後まで楽しんでってくださーい!!」


「「おおおっ!」」


 お客さんの反応は前座より上々だ。


 さっきも思ったけど、お客さんいっぱいだ。ミニスカだから脚の震えは誤魔化せない。けど、微小な震えが止まらない。これは目に見えるほどのものだろうか。怖くて確認できない。


 でも、私が楽しまなきゃ、メンバーも、お客さんも萎えちゃう。そう、ここはみんなが一体になって楽しむステージだ。私がみんなを楽しい世界へリードしなきゃ!


「さぁ、まずはウォーミングアップの一曲目! 私が勝手に考えたうろな町のイメージソングです! もちろん非公認! 町長さーん! どこかで聞いていらっしゃいますかー? 聞いてなくても勝手に始めちゃいます! それではお聴きください! 『Welcome to the URONA TOWN!』」


 四つ数えてバンド演奏開始。エレナは肩にギターを掛けているが、この場はしばらく両手を挙げて手拍子をしながら観客にもそれを請うた。ステージが一体になるための第一歩である。エレナに応えて手拍子をする観客が徐々に増えてゆく。曲のテンポがゆるりゆらりとしていることもあり、途中まで手拍子しようか迷っていた人も合流しやすい。敢えてこの曲を持ってきたのには、そんな狙いもある。


「青い海、緑の山、Heartwarningなeveryone! さあ~ここへ集えWelcome to the URONA TOWN!」


 あぁ、いいな、この感覚。みんなが段々とひとつになってゆく。私が大好きな、ステージの感覚だ。ううん、パフォーマーならほぼ誰でも。


 良い具合に場が温まってきたところで二曲目。次はハイテンポなハードロックだ。


 けどその前に……。


「お聴きくださりありがとうございます! さて、ここでメンバーの様子を伺っていこうかと思います! まずはドラム担当、汗だくの洋忠さん! 調子はどうですかー」


 調子はどうですかーだけ何故か棒読みしたエレナ。


「キサマアアア!! ステージがこんなに暑いとは聞いとらんぞおおおっ!! ハァ、ハァ……」


 洋忠の悲痛な叫びを観客たちがガヤガヤと笑う。成夢と心南海は苦笑い、エレナは冷めた目で洋忠を見る。


「練習は冷房の効いたスタジオだったもんねー。水分補給しながらもうちょっと頑張ってねー。さぁ続いてキーボード&DJ担当の心南海ちゃん!」


 心南海は一曲目にキーボード、二曲目はイコライザーで音を調整するDJ、ラストは再びキーボードを担当する。イコライザーは成夢とエレナの足元に設置しても良いが、敢えて心南海の役割を用意した。


「サイコーでーす! みんな今日は来てくれてありがとー!」


「「おーっ!!」」


 心南海の挨拶に一部の観客が興奮。心南海目当てに窓口を訪れる客も多い。


「そして成夢くんはどうかなー!?」


「サイコーですよ! 綺麗なお姉さんたちの声援が心に響きます! あ、もちろん男性の皆さんもですよ!」


「「ぎひゃあああ成夢くーん!!」」


 何故か中年女性の集団が成夢に興奮。成夢は成夢でちょっとしたアイドルのようだ。


「お客さまもメンバーのみんなも楽しんでくれてるみたいで何よりです! もちろん私もサイコーに楽しんでます! 残り二曲、全力で楽しみましょう! 続いてはハードロックな一曲、『Milkyway』!」


 数秒間置き、演奏開始。


 イントロではエレナのギター、成夢ベースの伴奏にのせ、エレナと心南海のツインヴォーカルが息を合わせてマイクに吹き込む。


 ギターと8弦ベースを最大限に活かしたハードなサウンドに一部の観客がざわめき始める。


 重低音に震えるステージは一気に加熱し、観客が熱狂してゆくのがハッキリと伝わってくる。洋忠は演奏に必死であるが、他の三人は気分が高揚し、笑顔を弾ませながらメロディーラインを突き進んでゆく。 


「「‘じゃあね’だなんてまた明日会うみたいにー、強がっていたけれど、もう誤魔化せないわー! 年に一度の逢瀬なんて残酷な運命、いま、すーぐにー」」


「撃ち破ってあげるわっ」


 サビに入り、エレナと心南海の声が澄明に共鳴し、ヒートアップする会場を揺らす。二曲目は最高潮に盛り上がる。『撃ち破ってあげるわ』はエレナが囁くようにそっと、しかし強く歌い上げた。


 あぁ。さっきまでの緊張が嘘のようだ。音楽って、やっぱりサイコーに爽快! でもこの曲だとハード過ぎてお年寄りには聴きづらいかもと思って、最後はあの曲にして正解だったかな。いつも駅に来てくれるおばあちゃんとか、お年寄りの方もいるし。


「ありがとうございます! 二曲目はハイテンポな曲でしたので、ラストはスローテンポな曲で皆さまのハートにハーモニーをお届けしたいと思います! 聴いてください! 『どんなときも、ココロにうたを』」


 この曲は楽器はやや控えめに、ヴォーカルをメインにしたバラード。


「嬉しいことがあった、悲しいことーがあった、どんなときもココーロに、うたがあーったー。歌詞なんていらーない、ハナウタだーけで、キモチ伝わる、魔法みーたいだねー。さあみんなで、一緒に歌おう、口に出さなくてもいーいからー」


「「ラララーラ、ラーラ、ラララララー、ララララーラー、ララーララーラー、ラララーラ、ラーラ、ラララララー、ララララーラー、ララーララーラー、この小さーな胸にー、うたをいーまひーびかーせてー」」


 この曲でもサビはエレナと心南海の合唱。穏やかなメロディーでありながら場の空気がクールダウンすることなく、ホットな雰囲気を保ったまま、Harmony to Heartのステージは盛況のうちに終了した。


「「「「カンパーイ!!」」」」


「いやー祭り楽しかったっすね!」


 夕方、四人は公園内の特設ビアガーデンでオトナの後夜祭もといお疲れさま会を開いた。三人は中ジョッキ片手にグイグイしているが、未成年の心南海はコーラで代用。


「うん! 今日はサイコーだった!」


「ぷはーっ! 一時はあまりの熱気で生ける屍と化すと危惧したが、この一杯で生き返った!」


「三人とも酔い潰れたら置いてっちゃうからよろしくね!」


「酒飲めないと人生損っすよ! それに今日はエレナさんが初めて俺を名前で呼んでくれた記念日だからテンションマックスなんすよねー」


「ステージ上で苗字呼称じゃ畏まった感じがして不自然じゃん」


「呼んでくれた事実に変わりありませんから!」


 こんな社員たちが織りなすうろな駅。人事異動で顔ぶれは時々変わるものの、和気藹々とした雰囲気だけは、当面変わる気配はなさそうだ。  

 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 ようやくお祭り終了しました。特に町役員のお二方、祭典特設ページがあるなか長らくお待たせいたしまして申し訳ございません。


 


 

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