鉄道路線のごあんない
10時過ぎ、成夢は退社点呼を済ませて風通しは悪いがそれなりに涼しい半袖ワイシャツのクールビズ制服から暑苦しい紺の縦ストライプが入ったスーツに着替え、うろな駅6番線の『うろな本線』ホームに立ち、まもなく到着した東へ向かう客のまばらな普通電車に乗り込んだ。これが海水浴シーズンになるとリア充がウジャウジャしだすのだ。
うろな本線は『本』をとって『うろな線』と呼ばれる場合が多い。いま到着したのは上部に細く青いライン、窓を囲うクリーム色、下半分は上部と同じく青く塗装された鋼鉄製の古い車両で、片側3ドアの10両編成。車内中央部は左右それぞれに四人掛けのボックス席が二つずつ、ドアの脇には二人掛けのレールと平行に設置された、窓を背にして座るタイプの席がある。ボックス席のようにレールとクロスする座席と、窓を背にする座席を組み合わせた配置を『セミクロスシート』と呼ぶ。
「ご乗車ありがとうございます。うろな~、うろなです。うろな南線、うろな北線、地下鉄東西線、地下鉄南北線はお乗り換えです。6番線は普通列車海浜公園行きでーす。発車まで1分ほどお待ちくだあーさいっ」
車体の色であるが、地上路線の窓を囲う色は三路線ともにクリーム色。うろな南線は上部の細いラインと下半分が赤、うろな北線は緑に塗装されている。座席配置はいずれもセミクロスシートとなっている。
地下鉄は東西線がステンレス製の片側4ドア車体に水色の帯。南北線はアルミ製の片側3ドア車体に緑の帯を纏っている。座席配置はレールと平行に座席が配置された『ロングシート』である。
構内放送をしているのは助役の小出一郎。『どうせ俺はあのイチローにはなれないさ』が口癖の42歳。これまでの人生を振り返ると送りバントの繰り返しだったとか。妻に怒られて駆け込むのは自宅の最寄駅前にあるスナック。ママに頭をなでなでしてもらうのが至福のひとときだという。
そんな一郎がスイッチを押して、発車メロディーが流れる。成夢は先頭の10号車に居るので、階段のある5号車付近に立つ一郎の姿は見えないが、通りがかりに一言挨拶を交わしている。
「6番線から海浜公園行き発車しまーす。次は東うろなに停まりまーす。ドア閉まりまーす」
圧縮空気の音を発ててドアが閉まり、古びた電車はゆっくり加速してゆく。成夢が座っている進行方向右側のボックス席からは、程なくして製油工場と黒く淀んだ海が見えてきた。しかしその景色は次の東うろな駅を出ると一変する。
「次は~終点~海浜公園~海浜公園~。海浜公園より先へお越しのお客さまは、この後階段渡りまして隣のホーム、3番線から発車いたします~10時25分発~、普通列車~桃源郷行きへお乗り換えくださ~い」
4分後、東うろなを出た電車に広がる景色は息を呑むほどきらきらきらめく大海原。電車はそれを見下ろすように山を切り崩した崖っぷちをガタゴト激しく揺れながら豪快に飛ばしてゆく。列車の速度は時速100キロメートルほどだ。
成夢はまだ住み慣れない様々な顔を持つこの町の景色を見なが 、少しずつ馴染もうと考えていた。
「まもなく~、終点~、海浜公園~海浜公園~1番線到着~お出口は左側で~す。うろな線の桃源郷方面と、うろな南線、海浜森林線はお乗り換えで~す。どなたさまもお忘れものなさらぬようご注意ください~ご利用ありがとうございましたー 」
海浜公園駅は、その名の通り広場になっている公園や海水浴場といった観光スポットへの最寄駅。
だが成夢はそれらのある方向とは逆の北西側へ進み、白い2LDKの賃貸マンションを目指し、バスへ乗り込むのだった。成夢は帰ってからもあることをしなければならず、多忙なのだ。
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まさかの1000字超えwww
さて、そろそろ成夢についてご紹介いたしましょう。