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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
駅係員たちの日常編
29/120

魔力発動!?

 6月23日、日曜日。天気に恵まれ若干汗ばむこの日はうろな駅の南側にある中央公園で『ケイドロ』という、鬼ごっこの鬼を警察、逃走者を泥棒に見立てた追いかけっこの大会が自治体公認で開催されていた。


 うろな駅の営業主任である洋忠は健康のため大会に参加するよう支社から辞令がくだり、泥棒として息を切らしながら広場を駆け回っている。


「「カンパーイ!」」


 非番の成夢とエレナは応援と銘打った冷やかしに来ており、公園の隅の木陰にレジャーシートを広げて缶ビールやチューハイを開けていた。


「あの~、これが以前誘ってくれた酒の席ですか?」


 レモンチューハイを一口飲んだ成夢が豪快にビールを飲むエレナに問うた。


「ううん、これは突発的な宴会だから別! それより、さっきから私の胸とか太もも見てるでしょ」


「エレナさんもう酔ってるんですか? さっきからじゃなくて日頃から見てますよ」


「はははははー!! 大辻くんはオタクだけどあのキモオタと違って健全だねー!!」


「大丈夫ですか? なんかテンションおかしいですよ?」


「そんなことありませーん! 私はお酒強いんだから!」


「普段だったらせーんじゃなくてせんーって言うのに。まぁいいや」


「そうそう。細かいことは気にしないでキモオタの‘ドロケイ’見てよう」


「あ、いつもの口調に戻った。ってか、エレナさんもドロケイって言うんですね」


「同郷なんだからそうでしょ」


 成夢は有名人の多い神奈川県茅ヶ崎ちがさき市出身。エレナはその隣で、江ノ島えのしまや水族館などの観光スポットがある藤沢ふじさわ市出身である。


「なんかこう、ものの呼び方とか人の服装が違ったりするとアウェー感出ますよね。湘南新宿しょうなんしんじゅくラインの新宿より北とか京浜東北けいひんとうほく線の東京より北とか、人の雰囲気が神奈川とは違いますよね。県民性ってヤツ?」


「あーわかる! 池袋いけぶくろとか上野うえのまで行くと雰囲気が完全アウェー」


「向こうの人って髪とか服がカラフルですよね。神奈川は白のシャツに黒のジャケットとかその逆とか、シンプルな格好多いし俺もそうなんですけど、ウチ等があっち行くと浮いてる感がするような」


「でも天狗のお面被ってる人は見ないよね」


「ははは。さすがうろな。でも俺のアレだってエレナさんの前では天狗の鼻みたいに立派になりますよ!」


「大辻くんって制服着てないと勤務中でも平気でセクハラ発言するよね」


「今日はオフですよ? ハイキングは仕事でしたけど」


「自覚あるんだ」


「当然。あ、喋るのに夢中で芹沢さんの応援すんの忘れてた」


 成夢は辺りを見回したが洋忠の姿は見当たらなかった。きっとどこかの物陰で休んでいるのだろう。


「応援する気あったんだ。私なんかアイツがサボったときのためにこんなの用意しちゃった」


 エレナはバッグから小さな緑色のポリ袋を取り出し、開いて成夢に中身を見せた。


「ひでぇ。使うのはやめましょうね」


 中身はネズミ花火やロケット花火、癇癪玉かんしゃくだまになぜか接着剤と綿が付着した紙を二本の指でつまんで離すと綿が煙のように舞う『妖怪ケムリ』という全く無害なものが混じっていた。


「え~」


「え~じゃない。危険です」


「ネズミ花火くらいなら大丈夫よ。妖怪ケムリは魔力が発動するから危険だけど」


「妖怪ケムリ一番安全ですから! むしろ他のは全部危険です!」


「平気だって。私が高校生の頃なんかケンカするときは壊れたラジカセ投げたり雪が降った日はガリガリ君を口に突っ込み合ったりしてたんだから」


「なんすかそれ!? ガリガリ君突っ込むとか可愛過ぎですよ!」


「そう思うでしょ。でも冷凍庫から出したばかりのヤツを突っ込まれると低温ヤケドして地味にダメージ大きいんだ。それにスティックが喉の奥に刺さるかもしれないスリリングな一面もあるのよ?」


「そっちのほうがダメージデカイでしょ! もうやっちゃダメですからね! スティックは俺のだけ突っ込めばいいんです」


「なにそれミルクバー? アイスキャンディーの中からコンデンスミルクが出てくるヤツ」


「ちょっと今日はどうしたんですか!? 俺のこども産みたいんですか!? ちなみに俺は宇治金時フレーバーが好きです」


「そうそう! 私も宇治金時! うーんとね、今日ちょっとからだの調子悪いんだ。だからノリがヘンなのかも」


「あ、そういうことですか。後でホテル行きましょう」


 ホテルへ誘われたエレナは妖怪ケムリの台紙をつまみ、成夢の眼前に手を伸ばして指をぱふぱふさせ綿を放った。


「あの~、真顔で妖怪ケムリ攻撃されてる俺はどう反応すればいいんですか~」


 エレナが放つ綿は成夢の眼前でふわふわ舞い上がっては堕ちてゆく。


「黙って魔力に侵されればいいのよ~」


「わ~やられた~」


「はっはっは~、どうだまいったか~」


 いい大人が三文芝居で戯れて一息ついた頃に洋忠が息を切らして戻って来ると、エレナはツンツンイキイキとネズミ花火を投げつけて天狗仮面に注意された。


 こうやって駅の仲間と過ごせるのも、あと少しか…。


 車掌試験が迫るエレナは、駅の仲間と過ごす時間を精一杯楽しもうと、ビールを一口飲み込んで秘かにココロに決めたのであった。


 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 今回は三衣 千月さんの『うろな天狗の仮面の秘密』にて展開されましたケイドロ大会の傍らでの出来事を当方で執筆いたしましたため、天狗仮面さんのお名前をお借りいたしました。

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