新型車両の仕様等とエレナの複雑な感情
6月17日、月曜日。水不足が心配になるくらいカラッとした晴れの日が続いている。今日までにあったことは、うろな南線への4ドア車両配備完了、うろな北線にも4ドア車両の配備が始まり、3ドア車両は7月5日をもって営業終了となる。以前の発表どおりいずれの路線も中古車であるが、うろな南線はドア上にLED表示器を設置したやや古いタイプで、うろな北線はドア上に2台の液晶モニター、車両中央部には空気清浄機、吊り手を抗菌仕様にした現在の主流タイプである。
原則として4ドア車両の吊り手は3ドア車両で使用されているレールと平行に設置された丸いタイプではなく、掴まり易いようにレールと垂直の向きに設置した三角形タイプである。
14時過ぎ。窓口の看板娘であるエレナと美鈴は軍手を嵌めてうろな本線上りホームのゴミ拾いをしていた。6番線には7月6日のダイヤ改正から営業運転を開始する新型車両の試運転列車が停車している。ステンレスにターコイズブルーとイエローグリーンの帯を纏った出来たての車両は、太陽に照らされてきらきら光沢を放っている。
新型車両は配備が終了して旧型車両が引退するまでは最高時速130キロメートル、その後は信号方式を信号機と信号機の間には1本の列車しか走らせてはならない『閉塞運転方式』から、列車と列車の距離を計測しながら適切な速度で運転する『デジタルATC方式』へ改良するほか、屋根に取り付けられた『パンタグラフ』という集電装置から『架空電車線路』という電線を流れる電気を供給する方式に代わり、レールに流れる電気を車輪を伝って供給および返還する方式への変更。更にうろな町内など新幹線のように踏切のない高架区間では線路に磁石を敷設し、加減速力および高速化、磁力による脱線防止を図る『超電導方式』を採用し、最高時速を180キロメートルまで引き上げる計画がある。これにより地下鉄や将来建設される可能性のある高速道路を走る自動車に圧倒的な差をつける戦略だ。
インテリアは化粧板、つまるところ壁面をヨモギ色、座席と吊り手を焦げ茶色、ドアは切り株をイメージした肌色とし、リラックスできる森をイメージした。各ドア上には有機ELディスプレイを2台ずつ、その下にフルカラーLEDのスクロール式運行情報案内装置を設置している。
その他、座席は脚を広げられない構造のものを採用し、車端部は従来の4ドア車では座席が左右3席ずつ、計6席であったが、ドアを中央側に寄せて左右5席ずつ、計10席とし、車両中央部への出入りをスムーズにし、中間車両では1両あたり優先席を従来比で4席増やした。また、優先席エリアでは携帯機器の電波が飛ばないよう見えないバリケードを張り、ペースメーカーを使用している旅客が安心して利用できるようにした。
「エレナさんエレナさん! 電車がチューしてますよ!」
美鈴は10号車と11号車の運転台のある車両同士が向かい合って連結されているのを見て興奮している。エレナは戸惑いながら、うん、そうだねと返した。
「しかも同じ車種同士! 人間でいえば同性でチューしてるんですよこれ! 擬人化してBL本にできそうですねデュフフフフ…」
エレナは溜め息をつき、どうして私はこの子より人気が劣るのだろうと、『お客さまの声』に書かれた内容を思い出して意気消沈した。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
う~ん、どうやって町と絡んでいこうか…。




