うろな駅の日常
8時30分、勤務終了。成夢は有人改札口の奥にある社員休憩室で朝食を摂ってから帰ることにした。37インチのハイビジョンテレビにはドキドキでプリティーでキュアキュアなアニメが映っている。成夢は昨日の休憩時間にコンビニで買ったイチゴジャム入りのコッペパンをむほむほ頬張りながら、血眼でテレビに齧り付いている。
「はふぉーっ! もうプリ〇ュア始まってるよお~。くそお! 酔っ払いに絡まれなきゃ25分で引き継ぎできたのにいっ! くーうっ!」
息を切らせながら休憩室に飛び込んできたのは、小太りで縁の細いメガネを掛けた30歳の主任、芹沢洋忠。中途採用の入社3年目。以前はスーパーマーケットで精肉の販売に携わっていたが、陳列された精肉を見た客から『これはお前の肉か?』などと散々なことを言われて辞めたのだとか。
「お疲れさまです」
「おちゅかれなるたーん! ボクの分までドキドキしてくれてるかい!?」
‘なるたん’は洋忠が成夢を呼ぶときの徒名。
「そりゃもうドキドキが止まらんですよ! ハァ、ハァ…」
「もう、アンタたちイイ歳こいてなんなの? 変態なの? なんなら私が踏んであげようか?」
きっぷや定期券を発売する窓口の勤務を終えて戻ってきたのは、業務のためセミロングをポニーテールに結った25歳、営業指導係の行谷エレナ。洋忠と同期入社で、うろな駅に集うどうしようもない社員のまとめ役だが、残念なことにもうじき車掌試験への誘いが来るであろう。
「やかましいわ三次元!! そんなこと言ってホントはマゾマゾなのをボクは知っているぞお!!」
「なっ!? なによそれ!? 誰よそんなウワサ流したの!? そんなのデマに決まってるでしょ!? ってか勤務終了したらとっとと帰れキモオタ!!」
「やなこったべろべろばー! ワン〇ース終わるまでな帰んないもんねー!」
「あーもう、大辻くんも、こんな先輩見習っちゃダメよ?」
「え~」
「え~じゃない!」
「エエじゃない!」
「良くない黙れキモオタ!」
「ボクの世界から三次元シャットアウト~」
洋忠は両耳に手を当ててエレナの声を遮断、尚且つ正面のテレビの音を入りやすくした。
これがうろな駅の日常光景である。さてさて、これからどうなることやら…。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
第2話は500字超えちゃいましたw
次回もお楽しみに!