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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
駅係員たちの日常編
17/120

人の育てかた

 応接室に呼び出され、緊張のため尻を若干浮かして革製のソファに掛ける成夢と、隣で訳もわからず毅然と掛ける理一。正面にはエレナが掛けており、三人で正三角形を形成している。


「あの、すみません。俺のことで、エレナさんが怒られちゃったんですよね」


 成夢は察していた。不手際により他の社員にクレームが来て、彼らが代わりに詫びる光景は日常茶飯事。成夢もベテラン社員の横柄な態度について何度か詫びている。


「あー、そうだねー。じゃあ大辻くんは鉄道について色々覚えよう。とりあえず、うろな線の桃源郷から湯海まで暗記ね♪」


「はい。がんばります」


「うん。がんばろう♪ でさ、突然だけど二人とも、どうしてうちの会社入ったの? まず先輩の高田くん!」


 理一について言及しないのかと成夢は疑問を抱いたが、とりあえず自分の志望動機を頭から引き出した。


「僕は運転士になりたくて」


「そうだよね。去年配属されたときも教えてくれたよね。なら、どんな運転士になりたいのかな?」


「どんな運転士?」


「そう。それがすごく大事なの。高田くんの課題はまずそれかな。感性を働かせればきっと答えは見えてくるから」


「はぁ…」


 理一はエレナの言うことをイマイチ理解していないようで、首を傾げた。


「では続いて大辻くん!」


「俺は~、アレですね。この会社ってデカイし、鉄道だけじゃなくて色んなジャンルの事業をやってて、尚且つ結構多くの人が利用してるから、そこで自分が革命を起こしたら、もしかしたらこの国とか、世界が変わるかもしんないって思いました。で、俺はみんながハッピーになれるような仕掛けをしたいんですけど、具体的にどうするかってのは模索中ですね」


「うんうん。良かった。二人ともちゃんと目標を持ってるんだね。安定を求めて入りましたなんて言ったら大辻くんは試用期間だから解雇を申し立てたかもしれないし、高田くんは軽蔑して蚊帳の外になるところだったよ。もちろん管理者の目だって冷たくなるから運転士も車掌もダメ」


 エレナはホッと胸を撫で下ろし、笑顔で語った。


 応接室に呼び出された理由はそれだったのかと理一は理解した。これについては成夢も納得である。この会社の社員が安定志向であってはならない理由は語るまでもなく、理解できない者は入社する資格がない。会社経営にとっても目標を持つ社員にとっても邪魔者でしかない。しかしこういった社員も在るのが現状であり、彼らは在り来たりな文句を並べるつまらない人間である場合が多い。


「あとはそれを実現するために自分はどうあるべきか、視野を広く持って考えればきっと未来は明るい。私は自分にもそう言い聞かせて信じてる」


「なんすかエレナさん、俺たちを疑ってたんすかー!? ぼくたんショックだプー!」


「ごめんキモい!」


「うぅ…。ショックだプー…」


「さ、ごはんにしましょう!」


「はいだプー」

「はい」


 返事をして理一はそそくさと応接室を出たが、成夢は立ち上がってその場に留まり、出入口に差し掛かったエレナの背中に目を遣った。


「どうしたの?」


 エレナは何か用なのかと振り返り、目を丸くした。


「あのー、本人に言うのもアレなんでさっきは言わなかったんですけど、高田さんの接客態度はマズいんじゃないですか?」


「そうだね。現状としてはかなり。だけどね、私は彼に『営業スマイル』は身に付けてほしくないの。彼から笑顔を引き出すためにはね、私たち駅の仲間が楽しい思いをいっぱいさせて、外部では辛い経験をしないといけないと思う。そういった中で、何気ない生活の中にある有り難みに気付いて、人とも自然な笑顔で対話できるようになる。でも、今の彼に後者を求めるには人生経験かメンタルが及ばなくて、きっと崩壊しちゃう。だから今は、お客さまには申し訳ないけれど陰から彼の態度を見守りながら、なるべく自発的に動いてもらって経験を積んで、アドバイスをしたほうがいい場面ではしっかりする。それが私の人の育てかたなんだ」


「なるほどね。言われてみれば、俺も二十歳はたち前後の頃はまだ自我がしっかりしてなくて、今でも結構モヤモヤして、自分がわからなくなります」


 成夢はなぜか、エレナが高田を『彼』という代名詞で呼ぶことに心がモヤモヤしていた。


「ふふっ、私もまだまだわからないことだらけだよ。そうだ、こんど二人で呑みに行こうか」


「おぉ、いいっすね! 行きましょう!」


「うん! 約束ね! じゃあ私たちもごはんにしよう!」


「はい!」


 上司から酒の席に誘われるなどよくあることであるが、成夢はつい何かを期待してしまった。



 ご覧いただき本当にありがとうございます!


 この物語は特定一社の事情を語るものではございません。

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