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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
ブライダルトレイン

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120/120

列車はきょうも、走り続ける

「終わっちゃったね」


「うん」


「なんだか寂しいなぁ、転勤先が地元なのは救いだけど、ここにもなんやかんや愛着沸いてるし。ずっと運転してきたこの電車は、これで本当にさよならだもんね。なんだかほんと、みんなおつかれさまだよ」


 と美守。


 乗務を終え、最後の営業運転を終えて海浜公園電車区に最後の帰宅をした電車の桃源郷方運転台に集った鯨、咲月、美守。


 この電車は後日、福島県郡山(こおりやま)市にある解体場へ廃車回送される。いくら電車自身が解体されたくないと思っても、線路が開通して、電源を入れて、運転士がノッチを入れてしまえば、電車は動いてしまう。


 鯨がこの電車の電源を落とせば、次に起動するのは、最期のときだ。


 この485系電車は、電化区間であればどこでも走れる優れもの。実はほとんどの電車は、架線があればどこでも走れるわけではない。電源方式の違い、急勾配のある山岳地帯、寒冷地、豪雪地帯。そのすべてに対応しているのがこの485系。


 しかし昭和時代に開発された485系は老朽化が進み、寿命を迎え、全国から徐々に姿を消している。うろな町を走るこの車両は比較的長持ちしたほうで、宮城県の仙台せんだい電車区から海浜公園電車区に転属してから今日こんにちまで、ほとんど故障なく元気に走り続けた。鯨にとっては小学生時代の一人旅で、仙台地区で活躍していたころから乗っていた電車だった。


「いままで本当に、ありがとうございます」


 敢えて過去形の『ありがとうございました』は言わず、鯨は目を閉じて、そっと電源を落とした。


 真っ暗になった電車から降りた三人は、制帽を脱いで、電車の右斜め前から最敬礼をした。



 ◇◇◇



 4月、うろな町はすっかり静かになった。賑やかだった駅は、客も社員も半減。それでも、以前と変わらぬ日常を過ごす者もいる。


「いやぁ、ヒマっすね。観光の時代って、もう終わりなんすかね」


 土曜日の昼下がり、閑散としたうろな線上りホームを巡回中の成夢、エレナ、洋忠。


 ここ最近、うろな界隈どころか、会社全体でも売り上げが落ちている。


「これからは家に籠ってアニメを見る時代だよなるたん! 聖地巡礼以外の外出などナンセンス!」


「売り上げは落ちたけど、正直、このくらいのほうが仕事しやすいわね。人が増えればクレームも増える。ゆとりのない空間は苛立ちを生む」


 エレナが言ったとき、対面する下り線に、新型の特急かたりべが入線、停車した。


「言われてみればそうっすよね。個室車両だってそういうニーズがあって出来たんだし」


「そうね、ただ、殺人やパニックを肯定する気はないけど」


「そりゃそうさ3次元。悲劇を風化させちゃあならん」


「へぇ、たまにはいいこと言うじゃない」


「たまにではない。ボクはいつもいいことを言っている」


「はいはい。そうでしゅねー」


「はっはっはっ! ようやく認めたか3次元! 2次元こそが正義というこの世界の真理を!」


「そんな話してないでしょ」


「うるさいわこのボケナス! そんなんだからいつまで経っても3次元なんじゃボケが!」


「あーはいはい」


「態度が悪い!」


「まぁまぁ、少数とはいえお客さまの見てる前で言い合いは」


「ふむ、確かにそうだな、なるたん。一理あるぞ」


 鉄道の現場には、いつも予測不能な出来事が付き纏う。今回は殺人事件が発端となったが、目まぐるしく変化する社会で今後、何が起きるかわからない。大規模災害、テロ、疫病の流行。大雑把にそんなことが起こるだろうとは予測している。


 けれど実際にそれらと対峙したとき、予測を超える影響が出る場合もままある。殺人事件だって、まさかここまでの打撃を受けるとは、特に支社などに勤務する非現業の社員は予測していなかった。


 試練は次々と襲い来る。けれど、乗り越えられない試練はない。


 鉄道員たちはまたいつ対峙するかわからない無数の危機の中でいかに安全に、もし何かが起きてしまっても、被害を最小に抑えるため、日々修練を重ねている。


 うろな町の鉄道員も、転勤先で新しい道を歩み出した鉄道員たちもまた、険しい道を、時に顔をしかめ、涙して、立ち止まって、笑って、悲しみのない究極の未来へ、挑み続けている。


 平穏な日常を守る。それが鉄道の、最低限であり最大の使命だ。


 挑み続ける彼らの想いと、無数の人々の気持ちを乗せて、列車はきょうも、走り続ける。

 お読みいただきありがとうございます!


 うろな町企画という準合作となった本作は、鉄道という社会インフラを動かす立場としては、大変苦労の多い作品となりました。


 でも鉄道って、確かに予想だにしないことが日々起きるなと。そういう意味では、とてもリアルな作品となりました。


 本作はこれにて完結となりますが、拙作ではもう一つ、『未来がずっと、ありますように』という作品で鉄道の仕事を多く取り上げております。こちらは引き続き連載しておりますので、宜しければぜひごらんください。そちらではなんと! 本作登場の久里浜美守運転士の、うろな町を出てからの活躍も描いております!


 それでは、本作に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

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