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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
ブライダルトレイン

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114/120

貨物駅

「おはようございます」


「おっはよーみんなー!」


 一流と咲月が真っ先に挨拶を交わすと、他の3人もそれに続いた。


「いろいろあったけれど、無事この日を迎えられて一安心です」と一流。


「ほんとにねー」


 言いながらしゃがんだ咲月は、車体下部のコックを操作して、手でドアを開けた。


「ささ、こちらへどうぞ」


 咲月が促すと、一流、エレナ、成夢の順で車内に入った。咲月はドアコックを閉め、鯨とともに前方の乗務員室へ。


「じゃあ、出発しますよー」


 咲月が運転台からアナウンスを入れると、鯨が電車を発車させ、隣の東うろなに向けてゆっくり走り始めた。この近辺の駅は高架にあるが、電車はポイントを伝い本線を逸れて地へ下ってゆく。東うろな駅付近にはショッピングセンターがあり、商品の搬入をスムースに行うため。そこに貨物列車を横付けできるようになっている。


 この電車は旅客りょかく列車だが、パーティー用の料理や飲料を積んだトラックがショッピングセンターの荷役線で待っているため、特別に貨物線へ入った。


 黄色い点字ブロックもベンチも自販機もない、コンクリートむき出しの質素な貨物ホームに入る旅客電車を写真に収めようと、線路脇にはカメラを持った人物が数十名見受けられた。


 のそのそと走ってきた電車が貨物駅に停車すると、咲月はさっそくスイッチを用いて右側すべてのドアを開けた。


「じゃ、私は1号車に行くね! がんばろうね!」


「うん」


 笑顔を振りまく咲月にほだされて微笑む鯨。まだ新郎新婦こそ乗らないが、ここからはレストランや飲料メーカーなど外部の人が出入りするため、回送列車から営業列車の扱いに変わる。


 よって運転士の鯨はそのまま最前の運転台に留まり、車掌の咲月は最後部の運転台でドアの開閉や列車の状態監視等を行う。


 東うろな駅ではたっぷり1時間停車。一流、成夢、エレナも飲食業者に混じって搬入作業を手伝った。


 鯨と咲月は乗務員室に残り、無線放送を聞きながら、ダイヤ乱れや何らかの支障が発生していないか、常に聞き耳を立てている。


 1時間後、無事食品類の搬入を終えた電車は、ついに新郎新婦を迎えに走り出す。これまたのっそりのっそりと。


「出発注意、制限45」


 注意信号だが、電車は定刻通り発車。鯨は5段階あるノッチの3に合わせ、ゆっくり加速。グラスや皿を載せているため、ほんとうは2にしておきたいところだが、地べたから高架へ上がるにはそれなりのエネルギーが必要。なので3にして、それ以上の速度調整はせず、一気に本線へ合流する算段だ。


 うん、上手だね鯨。


 咲月は最後部の運転台で緩やかに上がってゆく速度計を見ながら、大好きな彼の腕前に惚れ惚れしていた。


 せっかく高架へ上がったが、次の海浜公園は地上駅。電車は再び坂を下る。ならば東うろなからずっと地続きにすれば良いとも思われるだろうが、用地買収が必要になるためこのような起伏を辿る線形になっている。


「ふ~う」


 他方運転台では、鯨が安堵の息を漏らしていた。ちんたら走っていると、前方から新型特急の試運転列車が現れて、これまで見なかった物凄いスピードで通過していった。ダイヤ乱れの際、新型の普通電車を通常100キロで運転するところ、130キロで運転したことはあるが、いまのはそれ以上、少なく見積もっても140キロは出ている。


 いま運転している特急型電車の営業最高速度は130キロだが、新型は50キロ上回る180キロ。現在より高度な運転技術が求められ、失敗すれば即雑用係へ降格。この会社にいる限り二度と運転職には戻れない。


 いまはこんなゆったりだけど、こんどはあれを運転するのかぁ。


 プレッシャーを感じつつ、鯨は惰性走行で30キロまで減速した電車を、定刻通り海浜公園駅に停車させた。


 ブライダルトレインの発車時刻、15時10分までは2時間少々。ここでしばし休憩だ。

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