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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
ブライダルトレイン

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後悔と再会

 大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ございません。

 結論から言うと、僕は鉄道会社に入り、運転士になれた。


 咲月さんと別れてから、毎日勉強し、会社の研究も欠かさずやった。それ以外の、言葉遣いや、冷静な判断を下せるようになるトレーニングなんかも。


 けど、ようやく入社した鉄道会社は新入社員研修から現在までずっと厳しくて、心が折れそうで、自我が崩壊しそうな日々がずっと続いている。


 駅員時代は客に罵声を浴びせられ、ときに暴力を振るわれ。車掌時代はいくら注意してもなくならない駆け込み乗車や、放送で噛んでしまったときなど、ミスをした際は上司からの叱責もあった。


 運転士になってからは最初、ブレーキが上手くかけられず、上司からはもちろん、客にも「下手クソ!」と野次を入れられ、そしてなにより、人を何度も轢いた。


 ここに至るまでの7年間、咲月さんとともに歩んでいたら、僕はどれだけ救われただろう。


 別れるべきではなかった。


 恋愛をしていても、夢を叶えられる方法はあったはずだ。


 目先のことばかりに捉われて、将来を見通していなかった。


 昨今の日本社会がブラックと言われるようなニュアンスの行動を、僕は自らしていた。


 年末年始の繁忙期を越えた2月、僕はうろな町から茅ヶ崎に帰省した。田舎町だけどうろな町よりは都会の、のんびりとした空気とピリピリした空気が混じる街。咲月さんと過ごしたころの茅ヶ崎は、まだそんなに張り詰めていなかったけれど、少しずつ、街は都会的に改造され、肩肘を張って歩く街になりつつある。テレビでは、とても大きな体型の人気芸能人が、そんな雰囲気の神奈川県や湘南地域を忌み嫌っていた。


 すっかりおしゃれに改装された駅のコンコースを出て、駅前の横断歩道に差しかかった。ダウンコートをまとった僕の頬に、乾いた風が突き刺さる。


 なんの変哲もなかった普通の街がおしゃれに生まれ変わるのはイヤではないけれど、それと引き換えに失われつつある人の温もりが、僕にはとても切ない。


 あ、この酒屋さん、いまもやってるんだ。


 左前方に建つ小さな酒屋さんを見て、変わりゆく街の変わらない景色に、少々安堵した。後方の本屋さんも健在だ。よく咲月さんと参考書や漫画本を買いに行ったな。


 信号が青になって、ピッポ、ピッポと鳴動するブザーとともに、人々は歩き出す。白い息を吐き、スマホの画面に照らされながら。歩きスマホをしていない僕から見ると、サイバー世界に飛び込んだまま歩く彼らは、何か違法な薬品を摂取した傀儡かいらいのようで、不気味だ。


 そんな中で一人、対向して歩いてきた白いコートの女性だけは、ちゃんと前を見て歩いていた。


「あっ」


 思わず、声が漏れた。


「鯨」


 横断歩道の真ん中で、僕は彼女と目と目を合わせ、互いに歩みを止めてしまった。左折しようとしている黒いセダンが、迷惑そうに停止している。反射的に、僕は彼女の手を取った。


「え、ちょっと」


 よろめき、慌てる彼女。僕はやや強引に彼女を引いて、歩道まで引き返した。

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