失恋クリスマス
別れよう。
いつか、そう遠くないうちにそう言われるんじゃないかって、最近ずっと思ってた。
それがこんな夜の裏道でなんて思わなかったけど、クリスマスのお別れは、なんとなく想像してた。きっとバレンタインまでは持たないと。
「うん、そうしよっか」
だから、鯨の提案に、一呼吸置いて同意した。
冬の乾いた風は、こんなときでも容赦なく頬を刺す。
でもチクリチクリと痛むのは胸の中で、じわじわ、ざわざわとざわめく。内側から全身に痺れが回って、壊れてゆくような、あぁ、これから底へ堕ちていくんだと、酷く落ち込むときに陥るどろどろした感覚だ。
でもそれと同時に、ほっとしている自分がいる。
どうしてだろうと自問する間でもない。
重たかった。私は頑固者で視野の狭い鯨を重たく感じていた。
きょうのデートだって、せっかく素敵な場所へ行ったのに、鯨は楽しそうじゃなかった。心此処に在らず。何か別のことを考えているのだと、見ていてわかった。
それはきっと、就職試験や帰りに乗る電車のこと。
私のことなんか、眼中になかった。
でも、交際を申し込んだのは私だから、なかなか別れを切り出せず、いざ別れてしまう惜しさもあった。
だから、鯨から言ってくれて良かった。
ほっとした部分はあっても別れ話はショックで、少し脚がすくんだ。鯨も終始俯いていた。家の近くまで辿り着くにはいつもより時間がかかった。
実際の所要時間は5分伸びたくらいだろうけど、それがやたらと長く感じた。
「じゃあね、頑張ってね。私を振ったんだから、ちゃんと夢、叶えてよ?」
鉄砲道とラチエン通りが交わる交差点。私は穏やかな笑顔を作って、彼女としての最後の挨拶をした。
「え?」
その一文字には、明らかな動揺があった。どうして僕の気持ちを知ってるの? そう問うていた。
「わかってるよ、理由くらい。だからこれからは誰にも邪魔されないで、一生懸命勉強してね」
「ごめんなさい」
「しょうがないよ。でも夢が叶って、もしまだ私に気を向けてくれるなら、そのときはまた、よろしくね。私に新しい彼氏がいたらごめんなさいだけど」
「うん」
「ふふ、じゃあね」
「はい、本当に、ごめんなさい」
「謝るのはまた夢が破れたときだよ! だからもう謝らなくていいように、頑張ってね」
「はい、すみません」
「だから、もう……」
「あ、はい……」
「うん、じゃあ、ね」
手を振って、私から先に歩き出した。ラチエン通りの茂みに沿って。
あ~あ、終わっちゃたな。
白くふくらんだ溜め息が手に届く高さで散る。ラチエン通りは狭すぎて、星はよく見えない。
帰ろう、涙がこぼれる前に。お家に帰って、ベッドに飛び込んでもふもふしよう。




