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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
専門学校、職場体験編

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こころ躍るもの

 久里浜さんに鉄道会社のことを教えてもらってからの僕の日々は、がらりと変わった。


 筆記試験、面接試験対策その他、やることが山積みだ。


 面接試験において僕は、性格上嘘をつけないだろう。


 志望動機を訊かれたら、運転士になりたいと正直に答えるか、暗記した適当な台詞を吐くか。


 いまから不安になっていても仕方ないし、専門学校卒は学科試験を突破しなければ面接には行けない。高卒だけが学科試験と面接試験をセットで受けられるらしい。


 月は移ろい12月、世間はクリスマスムード。勉学に勤しむ中でも僕は咲月さんとのデートをしていたのだが、相変わらずどこか気まずくて、コミュニケーションはきしんだ歯車のよう。


 デートをしている間にも、時間は流れて行く。就職試験が近付いている。この間にも、ライバルたちは試験勉強をしている。


 焦燥が支配する、からだと心。


 いくら対策をしても不安は募るばかりで、落ち着かない。


「少しは気分転換になると思ったんだけど、ダメだったかな」


 ここのところずっと上の空な僕を見かねて、咲月さんは横浜の『港の見える丘公園』近辺に僕を連れ出し、いまはアメリカ山の外国人墓地前を歩いているところ。


 午後3時、雲一つない快晴。無数の自動車や船舶が往来する横浜の空にしては大層澄んでいる。


「いや、そんなことは」


 あるのだが、良かれと思って連れ出した咲月さんに、本音は言えない。


 山の上に造られたこの街区はまるで欧米の高級住宅地のような雰囲気で、ここを訪れた多くの日本人は非日常感を味わえるだろう。


 しかし僕にとってはあまり興味をそそられない、ただお洒落で変わった場所という認識しか持てなかった。


 洋風住宅のような各建物は中を見学できるようになっていて、それぞれ書物や家具、小道具などが展示されている。一般受けはとても良いようで、周りにいた人々はそれらに大なり小なり関心を寄せていた。


 僕はというと、その間も勉強しなければという焦りや、帰りは湘南新宿ラインのグリーン車2階に乗りたいなどと、進路や趣味に想いを馳せていた。


 建物を見て回っているうちに日が暮れて、17時を回った。


 街路樹に巻き付けられたイルミネーションが青や白などにピカピカ光り、こういうのを幻想的なものというのだろうと、頭で理解した。


 咲月さんは「わー、きれい!」などとはしゃいでいたが、それよりも僕は元町・中華街駅から横浜駅まで乗車したみなとみらい線の車両が横浜高速鉄道所有の青い新型車両だったことのほうが心が躍った。

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