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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
専門学校、職場体験編

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勝負の1年

「きょうはありがとう!」


「いやいや私こそ、奢ってくれてありがとう! ごちそうさま!」


 ひらひらと手を振って歩道を辻堂つじどう方面へ歩き出した久里浜さんと、数歩西へ進みすぐ脇道に入る僕。振られた手への返事として、僕は振り返りながら会釈した。そのタイミングで目の前のバス停に辻堂駅南口行きのバスが停車し、数名の客が下車。久里浜さんはその中に紛れた。


 僕と久里浜さんはお互い近所に住んでいて、カフェ&バーから徒歩1分の場所に自宅がある。


 僕のために貴重な休日を割いてくれたお礼にと、久里浜さんの飲食代も僕が持った。社会人の彼女と学生の僕では十数倍の所得差があるだろうが、これは気持ちと義理の問題。


 まだまだ明るい15時過ぎに帰宅して、僕は自室の机に向かった。


 鉄道会社に入社後は多様なアイディアが求められるが、それ以前に僕は筆記試験で落ちてしまった。


 鉄道会社の筆記試験は学校の定期考査の比ではない難易度。


 しかも単に読み書き計算ができれば良いというわけでもないようだ。詳細は知らないが、学力以外にも求められる能力があり、それが試される。失礼だが高校時代、学業の成績がさほど奮わなかった久里浜さんが入社できたのは、何らかの適性があったからだろう。


 それが何なのかはわからないし、鉄道会社でも明確なことは一部の社員しか知らないと、先ほどの食事中に久里浜さんが教えてくれた。


 現在11月、来年にはまた、入社試験がある。新卒で入社できる最後のチャンスだろう。


 我が家は何度も学校に通わせてもらえるほど裕福ではなく、仮に僕が奨学金を借りたりアルバイトなどで学費を稼いだとしても、専門学校から他の専門学校または大学へ進学し、鉄道会社にエントリーした場合、人事担当はどう思うだろう。


 僕の推測では、往生際の悪いヤツだ。


 もちろん業務適性のほかに長く学校に通った分だけの教養や人徳が培われていたのならば、会社はその人を採用するだろう。


 けれど僕は僕という人間の能力を、そこまで昇華できるとは思えない。


 だから、僕に残された時間はあと1年。


 人生を賭けた勝負の1年だ。


 この1年をどう生きるかで、今度こそ人生が決まる。


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