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うろな駅係員の先の見えない日常  作者: おじぃ
専門学校、職場体験編

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鉄道の進化

「ど、どうすれば、いいの?」


 僕みたいなオタクでも鉄道会社で活躍する術があるというのなら、それは一刻でも早く知りたい。


「そんな身を乗り出さなくたって。もしかして谷間でも覗きたい?」


 前屈みになり上目遣いで僕を挑発する久里浜さん。胸の膨らみと白い下着が見えた。きっと普通の男子なら大喜びだろう。僕もこれが咲月さんならば劣情を禁じ得ない。


「……」


「わかったわかったゴメンゴメン! 鯨はそういう男子じゃないよね!」


 一呼吸置いて、久里浜さんは話を続ける。


「げふん、ではね、一言で言うならば、現状に不満を抱くことだよ鯨くん」


 拳を口に当て咳払いし、なぜか漫画に出てくる博士のように語った久里浜さん。


「不満?」


「そうだよ、不満だよ。欲求不満。それは私だけどね。てへっ!」


 言って久里浜さんは握り拳を右の頭上に当て、下を出しウインクした。


「……」


「げふんげふん、良いですかな鯨くん、不満があるから人類は進化してきた。会社も発展してきた。鉄道だって例外じゃない」


 僕は黙ったまま相槌を打った。僕もこれには同意見だ。


「例えば、馬より速く人や物を大量に運べる利点から、蒸気機関車が生まれた。技術力が向上して、石炭を必要としないディーゼル車や電気動力車、つまり電車が生まれた。ここまではいい?」


「うん」


「電車は画期的な発明だった。だけど維持にはお金も時間もかかる。そこでどうしたと思う?」


「鋼鉄製の車両から、ペンキを塗らなくていいステンレスの車両に置き換えた」


「そう。でも電車自体の維持費の他にも電気代とかレールにもお金がかかる。不景気だし、このままじゃ会社が潰れちゃうかも。そこで?」


「自前で発電所を作ったり、レールを傷めにくい軽量車体を開発した。軽量車体の付帯効果として、軽いぶんだけエネルギー消費が少なくなったから電気代や燃料費が節約できた」


「イエス! でもまだまだ課題は盛りだくさん。努力してコストは浮かせたけど、全く別の問題として、満員電車があるね」


「うん。混雑を緩和するために車体幅の大きい車両を開発して、ドアの数を増やしたり、座席の配置を工夫した。車高をホームの高さに合わせるために低くして、車イスでも乗降しやすくした」


「そう。こんな感じで現在に至るけど、それでも満員電車問題は解決してないし、座って通勤したい人のニーズにも応えられてない。在宅勤務が進んだり、人口の減少なんかもあって、鉄道の需要がなくなっちゃう。それで満員電車は解消されても、誰も乗ってくれなくなったらもはや電車を走らせる意味がない」


「た、確かに。そうやって廃線になった路線は過去にもたくさんある。いまでも存続危機の路線は数知れず……」


「イエス。まだまだ課題は盛りだくさんだし、これからの鉄道業界は安泰とはいえない。これにはびっくりした。大手だから将来はなんやかんややってけると思ったけど、先行きはなかなか危ういよ。会社入ればわかる」


 久里浜さんが在籍し、僕の第一志望である日本総合鉄道株式会社。かつては公企業だったが、傲慢知己な運営や自動車の普及により破綻し、昭和62年4月1日に民営化した。


 兆単位の負債を抱えて発足した同社は現在もなお、それを完済できていない。


 新幹線、山手やまのて線、東海道本線といったドル箱路線がある一方で不採算路線も多く、特に土地が広大でありながら人口が札幌に集中している北海道では多くの路線が廃線となっている。


「入りたいよ、会社」


「頑張ろう! いまからでも遅くない! 日本の鉄道を支える仲間になろうではありませんか!」


「総理大臣みたいな口調だね」


「都内に出かけるとたまに演説してるところに出くわすから覚えちゃった」


「なるほど」


「そんなこんなでかくかくしかじか、鉄道は満たされない部分を改善しながら今日こんにちまで生き延びてきた。でも時代は目まぐるしく変わるし、さっきも言ったけど解決されていない問題も山積みで、同じ内容のクレームが毎日たくさん寄せられる。ぶっちゃけ私も鉄道の一利用者として、なおざり感はすごく感じる。だからいまのままじゃダメ。でも現状を打破するには、嫌々仕事をする人より、鯨みたいに鉄道が好きで、尚且つ仕事としても好きになれる人のほうが良い結果が出るんじゃないかって個人的には思う」


「好きこそものの上手なれ」


「イエス! 何とは言わないけど、実際に鉄道を好きな人が設計した車両は機能性とデザイン性を感じられるんだよね」


「鉄道を好きじゃない人が設計した車両は質素なの?」


「うん、まぁ、一概には言えないけど、すごくシンプルで無機質なデザインだよ。車種は秘密だけど、想像におまかせします」


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